「絆と糸」アイミタガイ Ericさんの映画レビュー(感想・評価)
絆と糸
親友、叶海(藤間爽子)を失った梓(黒木華)。娘を失った父優作(田口トモロヲ)と母朋子(西田尚美)。三人が激しく涙を流すシーンはない。それで叶海が逝ってから時間が経ったこと、三人が立ち直れていないことが分かる。あまり表情を変えない梓が却って深い心の傷を感じさせる。
澄人(中村蒼)やこみち(草笛光子)と関わりながらまだ悲しみを叶海のスマホに送り続ける梓のメッセージを見つめる朋子が印象的だ。そして梓より少しだけ前進していたことでメッセージを開く。既読が付いた瞬間を見た梓は何も言わない。目が僅かに開くだけだ。頭では誰が開けたか分かっていただろうがそれでも叶海が読んだと思ってしまった。と、考えている。
でもやはり朋子が「行っちゃえ!」と送ったことに胸が熱くなった。「アイミタガイ」を教えた綾子(吹雪ジュン)も優しかったがそれ以上にこの一言が優しく感じた。「行っちゃえ!」は朋子と優作の優しさであり叶海の言葉だ。
実は原作では梓と叶海は親友でも同級生でもない。二人が中学生時代、こみちの弾くピアノを聴いていたこともない。映画より多い登場人物で全5章で構成されている。始まりは映画のように顔だけしか知らなかった澄人と優作だったが、眠って乗り越しそうな優作に澄人が文庫本を落とし起こしたことが父娘の奇跡へとなる。ただスマホは出てこない。こみちがピアノを披露する話は原作の方が好きだったりする。結婚に踏み切れない梓が祖母、綾子に「アイミタガイ」を教わるのは同じだが隣にいるのは異母弟の圭吾だ。名も分からない人まで含め全章に「アイミタガイ」でそっと繋がる人達がいる。
映画は梓と叶海を親友としたことで「アイミタガイ」は「絆」だと感じる。原作は美しい絹の「糸」だ。絆と糸。それぞれにいい。
(原作本は現在入手が難しいのでKindleで購入しました)