「「ミュージシャンは政治を語るな」の国で」ブラッド・スウェット&ティアーズに何が起こったのか? La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)

「ミュージシャンは政治を語るな」の国で

2024年11月28日
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鑑賞方法:映画館

 アメリカのロック事情に詳しい訳ではありませんが、Chicago と並ぶホーンセクションを揃えたロックバンドである彼らの名前は勿論知っているし、曲も聞いた事があります。いつしかその名を聞く事はなくなりましたが、その裏にこんな国家的な問題があったとは知りませんでした。

 1970年、彼らはロックバンドとしては初の東欧ツアーを敢行しました。鉄のカーテンがまだ強固であった時代に、アメリカ文化の自由を共産圏の国々に知らしめようとする米国務省が主導した企画でした。ユーゴスラビアのブカレストやポーランドではコンサートは大成功を収めた一方で、ルーマニアでは興奮した聴衆を抑えるために警察が導入され、警察犬によって聴衆を暴力的に追い出すような事態にも発展しました。

 そうして帰国してみると、ベトナム戦争を進める国の片棒を担いだ姿勢にリベラル派からは厳しく糾弾される一方で、彼らの反戦・反ニクソン的な普段の言動に右派からも火の手が上がり身動きできなくなったのでした。

 この時代、好むと好まざるとにかかわらず、音楽は政治と密接に絡み合っていたのです。「ミュージシャンは政治を語るな」などという漂白された思想が蔓延する現在の日本から見ると羨ましくも感じられます。当事者にとっては「勘弁してくれ」なのかも知れませんが。

 ただ、彼らが音楽シーンから姿を消したのはこの騒動が本当に原因だったのかの検証はもう少し進めて欲しかったです。

La Strada