「歴史的資料になり得るドキュメンタリー」ブラッド・スウェット&ティアーズに何が起こったのか? kadさんの映画レビュー(感想・評価)
歴史的資料になり得るドキュメンタリー
シカゴと並ぶブラス・ロックの名バンドであり、「シカゴになれなかった悲しきバンド」BS&T。
そんなBS&Tがアメリカ政府に利用され、1970年に『鉄のカーテン』によって分断された冷戦期東欧でツアーを行なった際の動向を追うドキュメンタリー。
ツアーの模様は映画化のために撮影されていたものの、当時お蔵入りになってしまい、さらにコロナ禍で偶然発見されるまで誰の目にも触れず眠っていたらしい。
50年以上の歳月を経てようやく日の目を浴びた映像には、これまで誰も観たことのないものが映っていた。
共産圏の重々しい雰囲気や監視に翻弄されつつ、やんちゃに振る舞う若きバンド・メンバーと、それを追う映画クルーたち。
自由を奪われた東側の若者たちが、自由主義国のロックに熱狂する姿。
そしてビートルズ『アビー・ロード』を蹴落としてアメリカNo.1に輝いた、BS&T全盛期のすさまじくエネルギッシュなライブ映像!
危険な中、よくぞこの映像を撮り持ち帰ってくれたと、当時の撮影クルーにも拍手を送りたくなった。
ツアーの後も複雑な事情に振り回されバンドは悲運の道を辿るが、しかし9人の大所帯から繰り出されるBS&Tの音楽は間違いなく素晴らしく、自分も隣の席の人も涙が堪えられなくなっていた。
各地で戦争が起こり、世界の分断が再び激しくなっている現代。
BS&Tファン、ロックファンだけでなく色々な人に観てもらい、対立と共存について考えていただきたい、歴史的価値のあるドキュメンタリーだった。
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