ブラッド・スウェット&ティアーズに何が起こったのか?のレビュー・感想・評価
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「ミュージシャンは政治を語るな」の国で
アメリカのロック事情に詳しい訳ではありませんが、Chicago と並ぶホーンセクションを揃えたロックバンドである彼らの名前は勿論知っているし、曲も聞いた事があります。いつしかその名を聞く事はなくなりましたが、その裏にこんな国家的な問題があったとは知りませんでした。
1970年、彼らはロックバンドとしては初の東欧ツアーを敢行しました。鉄のカーテンがまだ強固であった時代に、アメリカ文化の自由を共産圏の国々に知らしめようとする米国務省が主導した企画でした。ユーゴスラビアのブカレストやポーランドではコンサートは大成功を収めた一方で、ルーマニアでは興奮した聴衆を抑えるために警察が導入され、警察犬によって聴衆を暴力的に追い出すような事態にも発展しました。
そうして帰国してみると、ベトナム戦争を進める国の片棒を担いだ姿勢にリベラル派からは厳しく糾弾される一方で、彼らの反戦・反ニクソン的な普段の言動に右派からも火の手が上がり身動きできなくなったのでした。
この時代、好むと好まざるとにかかわらず、音楽は政治と密接に絡み合っていたのです。「ミュージシャンは政治を語るな」などという漂白された思想が蔓延する現在の日本から見ると羨ましくも感じられます。当事者にとっては「勘弁してくれ」なのかも知れませんが。
ただ、彼らが音楽シーンから姿を消したのはこの騒動が本当に原因だったのかの検証はもう少し進めて欲しかったです。
やっぱり音楽に国境は無い
グリーンカードを剥奪されて、バンドの活動を続けるためには、ツアーを引き受けるしかなかったのだろう。
冷戦時代にこのような興行が行われていたとは全く知らなかった。
BSTの演奏に熱狂する東欧やソ連の人たちの姿を観ていると、音楽に国境はないと感じる。
ライブの妨害のために犬を放ったりする様子、撮影したビデオテープはダミーを作って中身はダンボールに入れて、持ち帰る時のミッションインポッシブルなど興味深い映像だらけだった。
こうやって検閲をすり抜けて映像を持ち帰ったからこそ、この映画もできたんだよなあと考えるととても感慨深い。
論文が書けそう
ロック、ブラスロック、米ソ冷戦、社会主義国家、鉄のカーテン、ユーゴスラビア、ルーマニア、ポーランド、チャウシェスク、ニクソン、ベトナム戦争、イッピー、反体制運動、キャンセルカルチャー…。論文が書ける。
ロックとジャズの融合を図り1968年にレコードデビュー。その斬新さを売りにしたBS&Tは二枚目のアルバムからデヴィッド・クレイトン・トーマスをボーカルに迎え大ブレイクした。代表曲のスピニングホイールは日本でもヒット。ロック少年だった僕もシカゴとBS&Tをブラスロックの二大バンドとして認識していた。人気絶頂の最中の1970年、BS&Tは東ヨーロッパツアーを敢行。なぜ東欧に行ったのかという裏話も興味深い(好き好んで行ったわけじゃないんだよ)。そして、彼らのロックに社会主義国家の若者はどう反応したのか、それに対して政府はどう反応したのか。ユーゴスラビア、ルーマニア、ポーランドそれぞれに異なり、とても興味深い。さらにそれに対してBS&Tはどう対処したのか。これもまた面白い。そして帰国。彼らに対してアメリカ合衆国はどう対応(予め用意されたもの)し、またそれに対してアメリカの若者はどう反応したのか。とりわけ反体制の代表とも言える過激な若者の集団であるイッピーの反応、発言と行動。そしてBS&Tは人気の頂点から奈落の底に(シカゴがトップのバンドとしてミュージックシーンに君臨し続けたのとは対照的)。何もかもが興味深く面白い。そして気の毒なBS&T。音楽好きな僕としては、ロックって心を開放してくれるものなんだなと改めて痛感し、またそこに政治的なものを絡めてみることに強い違和感を覚えた。
*BS&Tのロックをスクリーンで楽しむことができる素晴らしい映画です。
カッコよさに痺れる
西側がソフトパワーで冷戦に勝利したという言説はよく聞くが、東の人々の禁じられた西側文化への傾倒が実際はどうだったのかを知りたくて鑑賞。
BS&Tというバンドも楽曲のことも知らなかったが、挿入される東欧ツアーライブ映像の、音と歌の迫力にただただ圧倒された。このパフォーマンスにぶん殴られたら、そりゃあ感化されずにいられないだろうと思う。実際、観客の反応も、ルーマニアの会場では熱狂した聴衆に当局が警備犬をけしかけて追い出しを図るほどで、国によって違いはあるにせよ(アングラの音源で聴いていた人もいただろう)、多くの人の心に今までにない強い印象を残し、影響を与えただろう。
だが、西側文化(とそれが含意する自由)への憧れと、同等の価値を提供できない自国体制への幻滅が、結果としてパワーになったというのは納得だが、そのために文化を「武器」に使おうとするとどうなるか。その一つの帰結が、BS&Tの悲劇だったといえる。米国の政策としては成果があったかもしれないが(ロックは彼らが初だが、音楽家の派遣自体は50年代から続いていた事業だという)、彼らに関する限り、それはバンドの将来の成功を犠牲に成り立つものだった。
ベトナム戦争下の米国社会の分断という状況のせいでもあるが、政府のプロジェクトとして不可避的に政治の介入を受ける、という点は、(すでに1回失敗している)クールナントカを進めたい向きにはぜひ教訓にしてほしいところ。
メンバーや関係者へのインタビュー、公電など外交記録に加えて、ライブの素晴らしいフィルムとサウンドトラックがふんだんに使われているのはこのツアーを映画にする予定だったからで(ツアースポンサーの米国務省が許可を出さず素材も回収された)、冷戦史、BS&Tの活動史のドキュメンタリーとしても、音楽映画としても楽しめる。
BS&Tにこんなことがあったなんて😱
これはブラッド・スウェット&ティアーズの封印された歴史を明らかにする驚愕のドキュメンタリー。
1969年にリリースされた音楽史に燦然と輝くセカンドアルバムで音楽界の頂点に立ったBS&T。しかし、いい時は短かった。
米ソ冷戦の渦に巻き込まれたと言うのが適切か。
70年春、アメリカ国務省の主催でルーマニア🇷🇴、チェコスロバキア🇨🇿、ポーランド🇵🇱などを巡る東欧ツアーに出た。脅迫されるかたちで。
まあ複雑な事情があったにせよ、彼らの全盛期のライブ映像に素直に感動する。てか、貴重過ぎて有り難くなる🙏🙇
各国の観客や警察の反応をとらえた映像の歴史的価値も計り知れない。ツアーそのものは間違いなく意義があるものだったのだが。
アメリカ🇺🇸に戻った彼らは複雑な社会情勢の中でバッシングを受けることに。一気にトップの座から転落した。
歴史的資料になり得るドキュメンタリー
シカゴと並ぶブラス・ロックの名バンドであり、「シカゴになれなかった悲しきバンド」BS&T。
そんなBS&Tがアメリカ政府に利用され、1970年に『鉄のカーテン』によって分断された冷戦期東欧でツアーを行なった際の動向を追うドキュメンタリー。
ツアーの模様は映画化のために撮影されていたものの、当時お蔵入りになってしまい、さらにコロナ禍で偶然発見されるまで誰の目にも触れず眠っていたらしい。
50年以上の歳月を経てようやく日の目を浴びた映像には、これまで誰も観たことのないものが映っていた。
共産圏の重々しい雰囲気や監視に翻弄されつつ、やんちゃに振る舞う若きバンド・メンバーと、それを追う映画クルーたち。
自由を奪われた東側の若者たちが、自由主義国のロックに熱狂する姿。
そしてビートルズ『アビー・ロード』を蹴落としてアメリカNo.1に輝いた、BS&T全盛期のすさまじくエネルギッシュなライブ映像!
危険な中、よくぞこの映像を撮り持ち帰ってくれたと、当時の撮影クルーにも拍手を送りたくなった。
ツアーの後も複雑な事情に振り回されバンドは悲運の道を辿るが、しかし9人の大所帯から繰り出されるBS&Tの音楽は間違いなく素晴らしく、自分も隣の席の人も涙が堪えられなくなっていた。
各地で戦争が起こり、世界の分断が再び激しくなっている現代。
BS&Tファン、ロックファンだけでなく色々な人に観てもらい、対立と共存について考えていただきたい、歴史的価値のあるドキュメンタリーだった。
音楽好きなら是非。音楽と政治が混同されるとろくでもない結末にしかならない好例
今年351本目(合計1,443本目/今月(2024年10月度)2本目)。
※ (前期)今年237本目(合計1,329本目/今月(2024年6月度)37本目)。
いわゆる冷戦時代に、アメリカの政府によって「利用された」バンドが当時の共産主義国(ポーランド、チェコ等)に行く一種のドキュメンタリー映画です。フィルムも一部は残っていたのか(このことは示唆される)、いくつか当時の映像であろう点もあります。
今でこそ2023~2024年で考えれば、特に音楽等芸能文化というものは政治と切り離す国のほうが多く、むしろ国際的に孤立している北朝鮮やシリア、あるいは多くの国が制裁をかけているキューバ、イランほかを除けば、一部の国で歌詞に規制がかかるのであろう国(主にイスラム系の国があたるが、イスラム系の国でも政教分離が進んで世俗化している国もある)を除けば、「音楽活動が国の思惑で妨害されることもなく入国手続きが適正である限り自由だし、また国の思惑で事実上も実際上も強制されることはない」ということは当然の理ですが、当時がそうでなかったことはこの映画が示す通りです。
実質的にドキュメンタリー映画で、映画に娯楽性を求めるのであればこの作品が良いのかという点は確かに気になりますが、実際にアメリカという(当時の水準でみても)先進国においてこのような音楽バンドの政治活動があったこと等はあまり知られておらず、この映画がかなり細かく描いていたのは好印象でした。
こうした過去があることも踏まえて、音楽であっても映画であっても、いわゆる「芸術活動」が政治の道具として使われることがないことを祈るのみです。
なお、放映している映画館自体は多いもののどうしても観客が見込めないのかパンフレットが扱いなしになっていたのが残念でした。
採点に関しては以下まで考慮していますがフルスコアです。
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(減点0.2/「社会主義」と「共産主義」が混同されて出てくる)
この映画が扱うのは当時の冷戦時代であり、民主主義と共産主義の扱いであったことは常識扱いで、映画の字幕の大半は「共産主義」ですが、同じ英語の聞き取りなのに「社会主義」の字幕のところがあります。
ただ、共産主義か社会主義かの議論の映画でもないし、この2つは(映画で扱う範囲では)実質的に同義語であるし(厳密には異なる)、字幕ミスかなとは思ったのですが、特にそれによって理解が妨げられることはないので採点幅は考慮しています。
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日本では考えられなかった
それ程の音楽ファンではなかったが、流石に70歳の自分にもBSTは馴染みのあるバンドだった。管楽器を交えてのサウンドはシカゴと共に、耳に残っていたが、確かに、いつの間にか、バンド自体の存在に付いて語られる事が無くなったので、本作は興味を持って鑑賞しました。冷戦時代と言う大きな枠組みと、西側諸国で荒れ狂っていた反体制運動の嵐。それを助長すると考えていた政権。政権エリートの自身の点数稼ぎの為に企画された鉄のカーテンの向こう側に行く東欧ツアー。それがまさか、この様な顛末になるとは。しかも、政権以上に、反体制側の政治的思惑にも足を引っ張られるとは。何か切なくなる。
「1970年のバンド」
今年230本目。
60年代後半から70年代世界一のロックバンドがあったのは知らなかった。それだけでもう2時間映画見て良かった。ライブシーンありトークもありアメリカのビートルズが一番好きな言葉。
アルクーパーは聞いたことあるけど、 このグループは名前さえ知らなか...
アルクーパーは聞いたことあるけど、
このグループは名前さえ知らなかった
この時代にこんな目に遭ったりとか、
ウッドストックに出てるのに出てないと思われたりとか、
なんかせつない
曲は、いい曲ばかりだと思った
チャウシェスクのこととか、
ちょっと新しい目で見そう
ありきたりではないロック・ドキュメンタリー
本作は、BS&Tが、時のニクソン政権の思惑により、ルーマニアやポーランドなどの東欧諸国での公演に行くはめになった顛末を描いている。
当時のロックシーンを支えていたのは、反戦や反体制を背景にしたカウンターカルチャー。ビートルズの「アビーロード」を凌ぐレコード売上を誇っていたBS&Tは、この東欧ツアーをきっかけに、「体制側のロック」の誹りを受け、人気が急落してしまう。
BS&Tが、なぜ米国政府の策略に乗らざるを得なかったのか、東欧でどのような演奏をしていたのか、本当に体制側であったのか否かという観点で、とても面白いと思った。
最後に、最近のロックドキュメンタリーは、当事者や関係者のインタビューを主体に構成されることが多く、画一的な印象がある。その点において、本作は50年代〜70年代初めの社会史を背景に、インタビューを効果的に織り込むという構成となっており、凡庸さを回避している。
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