劇場公開日 2024年9月20日

「丁寧に積み重ねた仕事と家族の記憶のかけがえなさを、心打つ映像で描いた一作」本日公休 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5丁寧に積み重ねた仕事と家族の記憶のかけがえなさを、心打つ映像で描いた一作

2024年11月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

主人公のアールイ(ルー・シャオフェン)のモデルはフー・ティエンユー監督の母親、というだけでなく、舞台となる理髪店自体が監督の実家であるなど、映像で綴る家族史、という趣の強い作品です。

「わたしの家族の物語」にこだわった作品作りのため、理髪店の丁寧に設えられているけど年月を感じさせる室内も、アールイの繊細かつ巧みな手さばきも、ごく自然なんだけど現実の時間の積み重ねを強く実感させられる迫真性に満ちています。

十分に事情も知らされずに、理髪店の「本日公休」という札を残して行方が分からなくなった母親を探して慌てふためく子供たちと、愛車でひた走る母親。このちょっとしたロードムービーのドタバタが本作の肝かと思いきや、一連の騒動が一段落するのは作品の3分の2あたり。そこから場面が転換するのですが、むしろここからが本作の見せ場、という作りになっています。

時代に取り残されたようなたたずまいの理髪店に鎮座する、観客すらも見慣れたものとして見過ごしてしまうようなモノやコトが、どのような過程を経てここに至ったのか、その描写はあくまで静かな語りであるにもかかわらず、圧巻です。上映時間100分そこそこなのに、重厚な家族ドラマを観たという満足感が強く、その点からも後半の物語が映像的な意味でも濃密であることがよくわかります。

派手さはなくとも流行の最先端でなくとも、理髪という技術は人と人とが長年かけて積み重ねていくものだ、という力強いメッセージを込めている点で、完成度の高い仕事映画としても楽しむことができました!

yui