劇場公開日 2024年9月20日

「理髪店という陽だまりの空間にて」本日公休 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5理髪店という陽だまりの空間にて

2024年9月30日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

このヒロインは生涯のうち一体どれほどの常連客たちの後ろ姿をじっと見つめてきたことだろう。それぞれの背中や襟足には人生が香る。そこにチョキチョキと心地よくも絶え間ない音が鼓動の如く響く。自身の母親をモデルに描いた本作の監督にとって、この日常がいかに大切な原風景であるかが温もりをもって伝わってくる。まさにその実家の理髪店でロケを敢行したというのも納得。いささか年季の入った店の窓から注ぎ込む穏やかな日差し、色あせた床、さりげない備品の数々は、ノスタルジーという言葉を超えた懐かしさと、自分も常連客になったかのような居心地の良さをもたらしてやまない。全編を通じて何かしら大事件が起きるわけではないが、変わらぬ風景、ずっとそのままでいて欲しい空気感を、丁寧に紡ぎゆくこの語り口が味わい深い。いわゆる「反復とずれ」の描写で、絶え間なく続いてきた日々にふと気づきと変化がもたらされる様子も静かに胸を締め付ける。

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牛津厚信