「見つける人と守る人、感情を超えて感動を導くものは、純真無垢な奉仕精神なのかもしれません」BISHU 世界でいちばん優しい服 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
見つける人と守る人、感情を超えて感動を導くものは、純真無垢な奉仕精神なのかもしれません
2024.10.24 イオンシネマ久御山
2024年の日本映画(125分、G)
愛知県一宮市を舞台に、発達障害を持つ高校生が夢に向かう様子を描いた青春映画
監督は西川達郎
脚本は鈴木史子&西川達郎
物語の舞台は、愛知県一宮市
尾州ウールの生産地である地域に住んでいる神谷史織(服部樹先)は、父・康孝(吉田栄作)の工場を手伝いながら、地元の高校に通っていた
彼女には発達障害があり、これまでは母・由香子(赤間麻里子)が支えてきたが、数年前に他界してからは、父と叔母の静江(清水美沙)が彼女を支えてきた
史織には唯一の理解者である友人・真理子(長澤樹)がいて、多くのクラスメイトの嫌がらせから彼女を守ってきた
ある日、学内のファッションデザインコンテストの事を知った真理子は、史織が描いたデザインを内緒で応募してしまう
そして、そのデザインがファッション科の里菜(早瀬結菜)を抑えて優秀賞に選ばれた
さらに真理子はそのデザインを形にして、一宮市主催のファッションコンクール
に作品を出そうと言い出す
だが、発達障害を抱える史織を人前に出すことに父は反対の立場で、そこで彼女たちは静江の協力を得ながら服を作り始める
史織にはこだわりがあって、糸を作るところから始め、自分のイメージに合った理想の布を作り出していく
そして、父の東京出張中にそれらを完成させるものの、見つかってしまい、大反対に遭ってしまうのである
映画には、その父と真っ向の立場にある史織の姉・布美(岡崎紗絵)が登場し、史織の夢をサポートしていく
彼女は自分の店を東京に構えていたが、結局失敗して田舎に帰ってきていた
父は挑戦や失敗に対しては咎めないものの、借金を抱えていることなどを相談しないことに腹を立てていて、心の底では娘たちにやりたいことをさせたいと思っている
だが、発達障害を抱える史織だけはそれを許容できず、彼女が傷つくことを過剰に恐れてしまう
そして、史織と向き合うことによって、彼女が自身の障害や評価よりも、服を第一に考えていることを知り、彼女の夢を応援する立場に回っていくことになったのである
物語は王道をゆく展開で、もう一人の発達障害を持つ同級生・満(黒川想矢)との関係も描かれていく
彼は自然音などの音集めが趣味で、それが後半になって史織を支える役割になっていた
彼はオレンジのベストを好んで着ていたが、ラストでは史織の布で作ったベストを着用している
このような優しい人間関係がとても心地よくて、見ていて幸せな気分になってくるのである
さらに、お仕事映画としても秀逸で、それを知らない視点の真理子を中心に展開されていく
父の頑固設定から、静江がそれを担うことになっていて、この人間関係も無理のない流れになっていた
地域振興を考える側面でも、布から作れるデザイナーというのは斬新で、そういったものがバズることによって、地域経済に良い影響が生まれるという過程も納得のいくものだと思う
自分のデザインを重視することよりも、地域のために何ができるかを考えることが必要で、「服は一人では作れない」という言葉にも重みがある
映画のキーシークエンスは、ランウェイをする史織のシーンだが、「モデルは歩くハンガー」という審査員のセシル(知花くらら)のアドバイスも的確で、「才能を見つける人、それを守る人たち」の存在によって、一人の天才が世の中に出ていく過程も秀逸だと思った
いずれにせよ、何かの夢を成し得る先には多くの人の協力と理解が必要で、史織の夢と対称的だったのが父と姉の夢だったのだと思う
自分を犠牲にすることで生活を成り立たせようとする父と、ひとりよがりで突破的な姉は、その夢の過程において、あまり協力者を得られていない
デザインの才能に関しては史織はずば抜けていても、それを自分の夢や才能と比較して、それに寄り添える存在に姉がなれるかどうかというのは重要なことだと思う
姉の夢に何かが足りないとすれば、このように人の感情を超えて行動を促させるものの存在であり、それこそが夢を煌めかせる重要な要素なのだろう
そう言った観点から見ても、夢はひとりでは成し得ないとも言える
そして、その夢が多くの人の心を動かせるかどうかには、夢の源泉の純粋さが必要なのかな、と感じた