「あの服を近くで見てみたい」BISHU 世界でいちばん優しい服 Ericさんの映画レビュー(感想・評価)
あの服を近くで見てみたい
青い世界に彩られた部屋。そのままだったらとても青が好きなんだな、だけど朝食で箸を揃える様子に史織(服部樹咲)は「ああそうなのか」と分かる。
親友の真理子(長澤樹)の明るさがとてもいい。史織が教室から出るのを妨害する男子生徒に対する一言に「うっしゃあ!」となる。
だがやはり父康孝(吉田栄作)の工場は資金繰りの危機に直面している。史織と布美(岡崎紗絵)の母がどうして故人となったかは映画では触れないが、工場と史織の障害のことで布美も含めかなりの日々を過ごしてきて、布美が家を出たのも閉塞感から自由になりたいとの気持ちがかなりあったのではと思う。
両親は常に妹を案じ、その妹はデザインも機織りも自分より優れたものを持つ。それを鼻にかけたなら布美は史織を恨むことができただろうに妹には全く悪意がない。妹を愛する気持ちと、憎む気持ちと、妹を抑える父への反感に加え自分の失敗。この映画で最も人間くさい。
観ていて何度もドキッとしたのが史織と満(黒川想矢)の目付きだ。単純ではない。史織は何を考えている? 怒りか、絶望か、あきらめか。目的を見つけてもいかにもキラキラッとこない。じんわりと喜びの光を宿す。満に至っては嬉しいのか満足しているのかまだ足りないのか分からない。そして全身で何かを表そうとする。黒川想矢君、すごい。
そして皆の優しさでできているという服。何色と表現するのだろう。どんな感触なのだろう。本気で近くで見たいと思っている。
ここまでの発達障害を子供に持つ家族の生活はどうなのか、私の周囲にいないので分からないが、恐らく史織ほど発達障害ならではの人が見事な能力を持つケースはそうないのではと感じる。実際にご家族にいる方が観たら「こんなものでは」「こうあってくれたら」と思うことも少なくないのでは、と思い星4つ。
世界でいちばん優しい服を着て喜ぶ満の姿にプラス星半分!
ちゃいろいおうま様、コメントいただきありがとうございます。
実は発達障害の方が持つかもしれない才能のことに触れるかは悩みました。SNSですごい集中力で作られた作品を見ると「素敵! この能力を伸ばして!」と応援したくなりますがそうやって表に出せる人が、その人の才能を見つけられる人や機会が現実的にどれだけなのか考え星5個は付けられませんでした。
ですがお言葉のように史織や満のような人をより多くの人が、それこそやさしい服で包むように受け入れてくれれば。そう願います。勿論、まずは私からです。
まさにおっしゃる通りかと思います。
史織はデッサン、デザインの才能が早々に見出されたことは
役中のお姉さんの功績であり、進むべき方向性が見いだせたことは
ある意味幸運なケースと思います。
自レビューにも書きましたが、自分にも発達障害がある親族がおり、
周りの方々にいろいろ協力をしていただいたり、
ご迷惑をおかけして日々過ごしています。
まだ、どういう才能がとか、どこをのばしていってあげれば
という段階ですらないのは事実です。
でも、こういう特性への認知が進むことに本作は貢献してくれたと思うし、
そこには敬意を表したいと思ってます。
長文失礼しました。