劇場公開日 2024年12月6日

「良く考えついたと感心させられる物語」劇場版ドクターX アラ古希さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0良く考えついたと感心させられる物語

2024年12月6日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

12 年間に7期制作されたテレビドラマの完結編である。映画にまでする必要があるのかと最初は思ったが、あまりに物凄い物語に度肝を抜かれ、終いには感涙を禁じ得なかった。良くこのような話を考えついたものである。平日の初回に観に行ったのだが、場内は高齢者でほぼ満席で、あちこちで啜り泣きが聞こえた。

馴染みの面々が顔を揃える中にあって、今回の最大の敵として立ちはだかるのは初登場の人物である。その生い立ちに神原晶が深く関わっていたことが話の発端になっている。テレビドラマで触れられて来なかった神原と大門の過去や関係性が丁寧に描かれていて、決め台詞「私、失敗しないので」のルーツまで示され、それだけでも見応えのあるものになっていた。

堂本が大門の過去を訪ね歩く中で、出生地の呉の風景が見られたのも良かった。今年の7月に行ったばかりで、海自の潜水艦が停泊しているところも見てきた。道を挟んだ反対側にはセブンのお店と、その2階に港を見渡せる喫茶店があるのを思い出した。

今回最大の見せ場となる手術は、完全に違法であり、殺人罪に問われる話である。それに、適合性も確かめないとかあり得ない。他に使われている医療技術も、細胞 3D プリンタによる人工血管や、埋設型の人工心臓、幹細胞培養による脳細胞治療など、いずれも未確立なものばかりで、その辺はかなりリアリティが怪しかったが、物語の迫力に押し切られたような感があった。

大門の若い頃を演じた八木莉可子は少ない登場ながら違和感がなかった。第一期で院長役だった伊東四朗など懐かしい顔も見られた。西田敏行は多くのシーズンに登場して蛭間院長役を演じており、これまで演じた役の中でベスト5に入るほど気に入っていた役なので、演じられなくなるのは寂しいと生前語っていたそうである。最後に追悼メッセージがあるが、エンドロールを全て見る必要がある。

口笛だけの旋律で雰囲気を瞬時に感じさせるテーマ曲は秀逸で、劇中の音楽への力の入れようも半端なく、出来も素晴らしいものだったが、最後に流れた歌謡曲は、まるで街宣右翼や 70 年代の学生運動のアジ演説を彷彿とさせるような怒鳴り声での歌い方で、折角の雰囲気を台無しにしていた。何故こんながさつな歌を最後に聞かせて観る者の神経を逆撫でするのか、意図が分からなかった。聞きたくないので耳を塞いでエンドロールを見る必要があった。迷惑至極である。

米倉涼子演じる大門未知子の一番の魅力は、術野を見つめる時の鋭い眼光である。歳を取らない城之内医師とともに、あの視線が見られなくなるのは寂しい限りである。
(映像5+脚本5+役者5+音楽4+演出5)×4= 96 点。

アラ古希