劇場公開日 2024年10月11日

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「ジイサンには身に沁みる」2度目のはなればなれ La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)

ジイサンには身に沁みる

2024年11月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 本作の原題『The Great Escape』は、ナチスの捕虜収容所からの脱出を目指す連合軍兵士を描いた傑作『大脱走』の原題と同じです。当然、それを意識したタイトルだったでしょう。ただ、あの映画は数十人の脱走を描いたものであったのに対し、本作はたった一人の老人の脱出劇です。

 2014年、イギリスの老人養護施設で妻と穏やかに暮らすバーニーは、或る日、施設を抜け出して対岸のフランス・ノルマンディに向かいます。施設では、突然姿を消したバーニーを巡って大騒動になるという実話に基づくお話。彼は、ノルマンディ上陸70周年の記念式典に出席しようとしていたのです。その道中で、やはり式典に参加する老兵たち、元ドイツ兵たちと出会うと、上陸の日の激戦の思い出、戦争を巡る妻との思い出が蘇って来ます。そして、彼にはどうしても訪れたい場所があったのでした。

 バーニーほどではないにしても、この歳になると「自分には遣り残した事があるのではないか」という思いは他人事とは思えず身に沁みます。「今からでもやっておかなくては」と「もう仕方ないか」が心の中で交錯するのです。

 あの上陸作戦で亡くなった5千人近い戦没者に対して「無駄な死だった」と呟く場面は、イギリス人としてはかなり勇気のいる描写ではないでしょうか。

 そして、名優マイケル・ケインは本作で俳優人生からの引退を表明し、妻役のグレンダ・ジャクソンは本作を最後に亡くなったと知ると、ジイサンは一層身に迫るものを感じるのでした。

La Strada