「終活最大の難問」2度目のはなればなれ かばこさんの映画レビュー(感想・評価)
終活最大の難問
戦争を生き抜いた世代の、終活の話だと思った。
「THE GREAT ESCAPER 」
たしかに「大脱走(者)」ですね、歩くのすらおぼつかない90歳が、誰の世話も受けずたった一人で連絡船乗り場まで行き、ドーバー海峡を渡り、現地に行ったのだから確かに偉大かも。
但し、計画性なし、お金だってない。(ちょいボケ入ってたか?)
アーサーが助けてくれなかったら野宿するしかなかった。
そういう夫を普通に送り出した妻・レネも相当肝が座ってる。
そっけないが、ツンデレなのだ。
ノルマンディー上陸作戦を経験したバーニーが、70周年記念式典にどうしても参加したかったのは、心に刺さった杭と折り合いをつけるには最後のチャンスと思ったからだろう。それは、バーニーに親切にしてくれた、育ちの良い金持ちジェントルマン・アーサーも同様。バーニーは、行きずりの戦友を死なせてしまったのは自分では、という葛藤に苦しみ、アーサーは、弟を殺したのは自分では、という罪悪感とともに生きてきた。
そして、それはノルマンディーで迎え撃ったドイツ兵にも。
彼らも、ここで命を落とした「英霊」を悼むために、ひっそりとやってきた。
彼らも、これが最後の機会だと思ったのだろう。
言葉少ない彼らに、バーニーはそっと手を重ねる。
憎きドイツ軍だが、個人として何の悪意があったのか。
ドイツ兵であっても、ここで多くの同胞を亡くし辛い時代を共有したという点では同士ではないか。
手と手を重ねて視線を交わしただけで、お互いの人間としての苦悩を共有できたよう。
バーニーは、自分とアーサーの参列の特等席を彼らに譲る。
追悼の式典なら、彼らには十分出席する資格があるのだ。
そんな風に思えるのは、70年という年月がバーニーの思考に、熟成の期間を与えたからだと思う。
ノルマンディー上陸作戦の数ヶ月前から、ドイツ軍の増援部隊や装備を迅速に動かせないよう連合軍の爆撃機がフランスの道路網や鉄道網を攻撃し、フランスの民間人が多数犠牲になった事実がさりげなく挟まれる。ドイツ軍との戦闘を生き延びたアーサーの弟は、民間人のレジスタンスに救われたのに、味方であるはずの、アーサーも含めたイギリス空軍の爆撃でやられた。手を下したのは自分かもしれない。こんなとんでもなく皮肉なことも、現実にはあったことだろう。
やはりバーニーに親切にしてくれた、現代の戦争で片足を失いPTSDを抱える若い元軍人の連絡船乗務員は、アーサーともども、お返しとしてバーニーから人生を大きく変える光をもらった。
情けは人の為ならず、とはこういうことだと思った。
バーニーとレネの、互いに口にすることはない終活は着々と進むが、最大の難関が見えてくる。
それは、どのように逝くか、ということ。
夫婦仲が良いのは、人間が得られる幸せの中でも最上級なものの一つだと思うが、死ぬときは大抵はひとりづつ。仲が良い分残されたほうの辛さはいかばかりか。
子どももいないようだし、この夫婦はあるときからずっと、このことを考えてきたのだろう。
「今度離れ離れになるときは、私もついていくことにした」
言葉通りにできたレネの終活は、GJだったようだ。
マイケル・ケインはさすがな名優、大物オーラを出すこと無く、思慮深さと意志の強さを持ち、少々ボケが入った「普通の老人」を、いとも自然に、言葉に頼ること無く表情と醸し出す空気で演じている。
我が物顔のサイクリストに仕返しで自転車のタイヤの空気を抜いたり、思いがけず有名人になって浮かれて反省したり、笑ってしまった。だけど夫は妻のためにすかさず巨大なスイスのチョコレートをプレゼントしてもらってたよね。高価なソーセージももらって、食いしん坊な妻を喜ばせたい、微笑ましい夫ぶりです。
90歳でも毎日お化粧し、美容活動に余念がないレネは若い頃、相当モテたようなので、バーニーはずっと気が気ではなかったかも。今だってツンデレで、かわいいおばあさんだし。
但し、頭が良く思慮深いであろう以外、アーサーの人となりは良くわからない。
妻をひたすら愛しているのは確かだが、育ちも欠点もわからないからちょっと不気味な気もする。
若い頃に見たらどうということない映画と思っただろうが、あと30年もすれば歩くのもおぼつかない、身の回りの世話すらひとりでは苦労するような時が来るのだと身につまされた。
その頃自分はどんな生活をしているんだろう、いや、そこまで生きていないかも
自分、人生も後半で、あとは衰えていくだけ、それはどうしようもない現実だ。
時が経つのは早く、つい昨日と思っていた若い頃がいつの間にか遠い過去のものになっていて愕然とする。
人生は短い、とつくづく思ってしまった。
それにしても、うらやましい夫婦ですよね。
愛する人と離れることなく、ケアが行き届いた小綺麗な高級(に見える)老人ホームに暮らし、車椅子を押しながらの散歩の途中でふたりで躊躇なくアイスクリーム食べられるくらいのお小遣いもある、夢で思い描くようなゆとりある老後ではないですか。
戸田奈津子さんが字幕を務めていて、ご自身もご高齢なので老境を描いた映画には適任だったように思いました。
共感、コメントありがとうございます。
なるほど。罪悪感、心の弱さ、そのへんが理由なんでしょうね。
でも、ラーゲリからの手紙、にもあった様に、言葉だけでも遺族は感激するのだから、増してや、写真や手紙なんだから、何としても戦友の望み、遺言、だったのだから、彼女に渡して欲しかった。
実話に基づく話だから、変えようがなかったんでしょうけど。
かばこさん、いつもありがとうございます。
人生は短い、本当にそう思いますね。
確かにもっと若い頃に見るより、もう自分も遠くない未来だなと思って見てました。
戸田さん、引退されたかと思ってたので嬉しかったですね。