2度目のはなればなれのレビュー・感想・評価
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70年抱え続けた心の傷と向き合う旅
ノルマンディ上陸作戦70周年記念式典に参加するため、老人ホームを抜け出して海を渡った老人の実話に基づいた物語。
主人公のバーニーは、ホームのあるコーヴ(イギリス南部の海辺の町)からタクシーでドーバーに行き、フェリーでノルマンディーに渡る。物語は彼とその妻レネの回想を交互に挟みつつ、夫婦の絆と戦争のトラウマ描写にウエイトが置かれたものになっている。
記念式典の団体ツアーに申し込みそびれたバーニーの背中を妻のレネが押したことで、彼は一見行き当たりばったりにも見える旅に出た。
終戦当時、レネのもとに帰ってきたバーニーは何か鬱屈としたものを抱えていたが、その理由をレネには決して言わなかった。レネはそんな彼の深い心の傷に立ち入らず、ただずっとそばにいることでバーニーを癒そうとしたのだろう。実際バーニーにとってもそれが一番の薬だった。だから、レネが老人ホームに入ることになった時、一緒についてきた。
そうして寄り添って70年の時を生きてきた2人だが、レネは病を抱えた身でありながら夫をノルマンディーに送り出した。
離ればなれの数日のうちに彼女の病状が悪化すれば、今生の別れの時に一緒にいられないかもしれない。それでもバーニーに出発を促したのは、彼には長年の心残りがあり、ノルマンディー行きによってそれを晴らすことができるかもしれないと見通したレネの慧眼だろう。今行かなければ、次の機会はないかもしれない。彼女の愛情の深さを感じた。
道中で、バーニーは戦争のトラウマに苦しむ人々と出会った。
フェリーで知り合ったアーサーは、退役後に名門校の校長を務めたという人物で、式典のチケットやホテルの手配をしてくれた。
戦地での経験を克服し充実した人生を歩んできたように見えた彼だが、実際はアルコール依存症に陥るほどの癒されない傷を抱えていた。大戦中、空軍兵士だったアーサーが爆撃した地域に、行方不明だった彼の兄がいた。自分が兄を殺したかもしれないという罪悪感に今も苛まれていたのだ。
バーニーも、あの日ノルマンディーで大丈夫だからと送り出した戦友のダグラスの死に自責の念を抱え続けていた。
彼らの抱えていた苦しみは、サバイバーズギルトと呼ばれるものなのだろう。戦争のせいで起きてしまった不幸な出来事が、個人の罪に擬態して生き残った者の心を人生の終幕まで蝕む。これもまた戦争の理不尽で残酷な一面だ。
その後の元ドイツ軍兵士たちとの邂逅が、特に印象的だった。バーニーがカフェに居合わせた彼らに歩み寄った瞬間は、見ていてにわかに緊張した。
だが、彼が声をかけたドイツ人もまた心の傷を抱えていた。かつての敵味方という関係を越えて、同じ苦しみを背負って来た者として彼の手を握るバーニーの姿に胸が熱くなった。
そして彼は自分の分だけでなく、アーサーのチケットまでドイツ人たちに譲った。式典よりも大事なことに向き合う覚悟ができたのだ。自分の心残りをなくすため、そしてアーサーを兄の墓に連れて行くため、彼はバイユー戦没者墓地を目指した。
バイユー墓地はフランス最大の第二次大戦イギリス連邦軍人墓地で、埋葬された遺体のほとんどがノルマンディー上陸作戦の戦死者、という場所だ。ちなみにここには他国籍の戦没者の墓も500基以上あり、その大半がドイツ人のものである。
数え切れないほどの墓標の中に兄とダグラスを見つけ、2人は墓参を果たした。彼らは悲しみと向き合い、戦争の虚しさに思いを致したが、きっと人生の心残りをひとつ減らせたはずだ。
無事ホームに帰還したバーニーを、すっかり時の人になった彼を追ってきたメディアと、レネの笑顔が迎える。理想的に思える老夫婦の絆に、心が救われるエンディング。
老いからは逃れられない、と語るバーニーの言葉が、本作で引退するマイケル・ケイン自身の思いのように聞こえる瞬間があった。
だが、今の年齢だからこそ表現できる人生のたそがれをスクリーンに刻み、自らの意思で俳優人生に幕を下ろした彼の生き方は、自身の年齢に向き合ってきたからこそ出来たことだと思う。そんな人間としてのあり方も含め、やはりマイケル・ケインは名優なのだ。
老夫婦の歴史を一瞬にして体現してしまう名優の凄み
老人ホームで暮らす老夫婦が、残された時間を互いに助け合いながら過ごしている。演じるのはマイケル・ケインとグレンダ・ジャクソン。夫婦で過ごした時間の長さを、一瞬にして体現してしまう名優の凄みに驚かされるし、2人ともとことん枯れ果てているのに、いつもひとかけらのユーモアを絶やさないのはさすがだ。2人の深い関係性は、夫がノルマンディー上陸作戦の記念式典に出席するため施設を飛び出したことで、さらに細部が加筆されていく。夫の行動には、戦争に加担してしまった人間の後悔が動機としてあり、そこが、この物語に深みを与えている。
まるで、一筆書きのように流暢に、そして、端的に綴られるストーリーは、実話を基にしているという。しかし、本作の場合、映画のためのあらゆる脚色よりも、ケインとジャクソンの行間を掬い取るような名演によって、凡庸なドラマに帰結することを免れている。特に、1960年代のスウィンギング・ロンドンを代表する人気俳優として活躍したケインと、『恋する女たち』('69年)以来、演技派の名前を欲しいままにしたジャクソンを知っている世代にとっては、2人が細くなった背中を寄せ合っている姿を見るだけで泣けてくるはず。
ケインはこれで俳優引退を表明し、ジャクソンは映画が完成した直後、2023年6月15日に帰らぬ人となった。
しっかりとした芯のある人間ドラマ
大戦を生き抜いた高齢の主人公が海辺のケア付き住居から抜け出しフランスで行われるDデイ記念式典を目指す。それだけですでに魅力的なストーリーだが、主演がマイケル・ケインであるがゆえにユーモアや温もりだけでない確かな深い味わいが染み渡る。特に心揺さぶるのは現在と過去の紡ぎ方だ。メインとなる夫婦(ケイン&故ジャクソン)の日々の穏やかな暮らしや主人公が旅先で出会う人々との交流が丁寧に描かれる一方、そこに各々の経験してきた戦争の記憶が繊細に添えられ、これまで口に出来なかった思いがじわりと浮き彫りになっていく。その奇をてらうことのない縦軸、横軸の絡み合いが胸を軋ませてやまず、とあるパブでの一幕、そこからの静かなる展開が私には本当にたまらなかった。かと思えば、いたずらに誰かを英雄視する行為に対しケインが放つ言葉も忘れ難い印象を残す。これぞケイン。彼だからこそ表現しえた芯のある生き様のドラマがここにはある。
マイケル・ケインとグレンダ・ジャクソン。老優二人の魂の演技に、ただただ平伏するのみ。
主人公カップルが、90歳近い年齢であるということ。
出演者自身、概ねその年齢に達しているということ。
それだけで、ある種の「サスペンス」が全編で維持されることに、観ながら気づいた。
なんといっても、彼らはいつなんどきお迎えが来ても、本当におかしくない年齢なのだから。
次のシーンで、突然、倒れるかもしれない。
ふとしたことで何が起きてもおかしくない。
暖かで、穏やかで、優しい愛と冒険の物語に、
そんな漠然としたサスペンスが常につきまとう。
彼らのドラマは、ドラマツルギー通りに終わるとは限らない。
ある時、唐突に打ち切られて終わってしまうかもしれない。
いや、現実なら、終わって当然の時期を描いた物語なのだ。
観終わって、家に帰ってから、
妻レネ役のグレンダ・ジャクソンが、映画の公開を待たず、
実際にこの世を去っていたことを知り、愕然とする。
「私に残されている時間はそんなに長くない」
あの劇中のセリフは、なんのことはない、
「グレンダ・ジャクソンにとっての現実」だったのだ。
そして、改めて気づく。
この映画自体、まかり間違えば、撮り切れないで終わったかもしれない可能性があった。
80代後半~90代の俳優を使うということは、そういうリスクすら秘めているわけだ。
現在、齢91歳のマイケル・ケインの引退作。
齢87歳で逝去したグレンダ・ジャクソンの遺作。
これは、偉大なる二人の俳優が遺した、
最後の演技であり、最後の記録である。
ただの劇映画ではない。
俳優自身の人生の終末期を生々しくフィルムに刻印した、二人の魂の記録でもある。
僕たちは心して、居住まいを正して、この宝物のような映画を観なければならない。
― ― ― ―
お正月、今年の一本目。
下高井戸で再映してくれて、本当によかった。
見逃していたが、もともと観たいと思っていた映画だった。
僕としては本当に珍しく、劇場のロビーでかかっていた予告編を観て「これは観たい」と思わされた映画だった。
マイケル・ケインの表情にやられた。
マイケル・ケインの声にやられた。
マイケル・ケインの涙にやられた。
予告編だけで、ちょっとうるっときてしまった。
そういうことだ。
僕は昔から、マイケル・ケインが大好きだった。
名優でありながら、奇天烈な映画や、癖の強い役にも、選り好んで出る、変な俳優。
最初に知ったのは、傑作ミステリ映画『探偵スルース』だったか。
ハリー・パーマーもののスパイ映画(レン・デイトン原作)も良かったが、個人的には『殺しのドレス』や『デス・トラップ 死の罠』『ペテン師とサギ師/だまされてリビエラ』のようなミステリ色の強い映画で熱演しているケインにしごく愛着がある。『迷探偵シャーロック・ホームズ/最後の冒険』でのアル中でアホでマヌケのホームズ役(ホームズは真の探偵役であるベン・キングズレー演じるワトソンが雇った「役者」という設定)もとても面白かった。リメイク版の『探偵スルース』での作家役も良かった(映画はイマイチだったが)。もちろん、サイテー映画として名高い『スウォーム』や『アイランド』に出ている時だって、マイケル・ケイン自身は全く手を抜いたりしない。
Z級からA級まで、なんでもオファーがあったら出る、最強の性格俳優。
そんな彼が「これが最後」と決めて出たのが、『2度目のはなればなれ』だった。
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名優が「老い」を演じた映画といえば、ヘンリー・フォンダとキャスリーン・ヘップバーンの『黄昏』、リリアン・ギッシュとベティ・デイヴィスの『八月の鯨』、ジャン=ルイ・トランティニャンとエマニュエル・リヴァの『愛、アムール』、それから去年公開された、ダリオ・アルジェントとフランソワーズ・ルブランの『ヴォルテックス』あたりがぱっと思い浮かぶ。
個人的に忘れられないのが、ルネ・クレマンが監督した『狼は天使の匂い』だ。
すでに自分が末期のガンだと知っていたロバート・ライアンの見せる、一世一代の名演技。
何度観ても、僕はラストでわけもわからないくらいに号泣する(笑)。
今回のマイケル・ケインとグレンダ・ジャクソンの演技も、思わず涙腺を刺激するものがあった。演出自体は少し説明過多でくどいし、その割にストーリーラインがイマイチ追いづらいし、ときどきテレビドラマのような陳腐なシーンが挿入されることもあり、すべてがすべて好みの映画だったとはいいがたいのだが、少なくとも老優二人の演技に関しては本当に素晴らしかった。
ただ佇んでいるだけで、絵になる。
どこかを見つめるだけで、想いが伝わる。
二人が向かい合うだけで、空気が変わる。
なんなんだろうね、これは?
演出に関しても、二人がもう大して歩けないこと、
思い通りには動けないことを、
しつこいくらいに描き込んでいた部分に関しては、とてもよかった。
徹底的に足元を映し、ゴム底の靴を映し、杖の先を映し、ものを探る手元を映す。
一定時間立っているだけで、座らざるを得ない「時間の限界」を示す。
90歳になって生きることの困難を、細かな所作とアイテムによってリアルに描き出す。
ふと見える衰えの瞬間、記憶の齟齬、うつろな表情、身体を走るヤバい痛み。
そんな耐久臨界ぎりぎりを迎えた「器」のなかで、なお確固とした「知性」がきらめき、熱い「情念」が渦巻いている。もちろんながら、老いてなお、人はやはり人なのだ。
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本作は、ある種のロード・ムーヴィーでもある(中盤だけだが)。
あるいは、「旅立ちの理由」と「旅の途中」と「旅の後始末」を対等に描く映画ともいえる。
老人ホームでの変わらない毎日、繰り返されるルーティーン自体、決して悪いものとしては描かれない。穏やかな日常、大切な人々とのふれあい。これはこれでかけがえのない時間だといえる。少なくとも、そのようにこの映画では描かれる。
でも、人生にはやはり、何かしらの「刺激」が時に必要だ。
80になっても、90もなっても、原理原則は変わらない。
人間には、必要なのだ。
時には、周りが迷惑するくらいの、思い切った刺激が。
それが、いわゆる「冒険」というものだ。
この映画は、一人旅に勝手に出かけてしまった、バーニーの冒険の物語でもあると同時に、自分から進んでバーニーを煽って旅に行かせた、「レネの冒険の物語」でもある。
忘れてはならない。
はなればなれを画策したのは、けっしてバーニーではない。
猛烈な勢いで背中を押したレネこそが、この件の真の首謀者なのだ。
彼女は、いつも「新鮮」であろうとする人だ。
だから、毎日、化粧をする。
夫にも、日中は装った姿しか見せたくない。
それくらい、日々「新しい自分」を見せたいと思っている人だ。
レネは、なぜバーニーを旅に送り出したのか。
それは、日常の繰り返しのなかでゆったりと死に近づいていくバーニーに、新しい「刺激」を与えたかったからだ。戦争から帰還して以降、夫がずっと抱えていた「何か大きなわだかまり」を解放し、解消させる「最後の機会」を与えたかったからだ。彼が「わだかまり」と向き合うのが怖くて、わざと参加期限を逃したことに気づいていたからだ。
さらには、旅から帰ってきたバーニーに、「新しいレネ」を見つけてほしかったからだ。
同時にそれは、残り僅かになった自らの人生に対する「刺激」でもあっただろう。
夫がそばにいないというシチュエーションを「敢えて」作り出すことによって、彼女は、バーニーの存在の大切さ、バーニーがそばにいる本当の意味、バーニーに対する自分の愛を、改めて「確かめよう」としたのだ。
二人には、ひとときの「はなればなれ」が必要だった。
残り僅かな二人の時間の「価値」を高めるために。
周りを騒動に巻き込むことは、レネにとっても、バーニーにとっても、本意ではなかっただろう。「刺激」としては面白い余禄にはなったけれど、あくまでこの冒険は、ふたり自身のためのものだった。
結果的に、バーニーは心残りだった死んだ戦友との思い出に、一定の決着をつけることができた。レニも、自分のなかにいまも渦巻いているバーニーへの想いに、改めて火をつけることができた。
冒頭の二人のシーンと、ラストの二人のシーンは、
似ているようでいて、少し違っている。
たしかに、小さな冒険は、二人に新しい命のうるおいを与えたのだ。
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●映画としては、フランスでの最初の夜、部屋をシェアしてくれたジョン・スタンディング演じる空軍出身の老人から、自分がアル中であるとの告白をバーニーが受けるあたりから、俄然面白くなった感じがある。
フランスに来ても、正式な招待者として参加していない後ろめたさと、集まっている大半のメンバーがアッパー・クラスであること(バーニーは過去篇から見ても明らかにワーキング・クラス)への疎外感で、どことなく寂しげで孤立気味だったバーニーが、「若干気後れしていた相手」の「弱み」を知り、自分との「共通するトラウマ」を知り、悪い言い方をすれば「ある程度マウントを取れた」ことで、だんだんと活力を取り戻していく様がまあまあリアルに描かれていた。
ちなみに、マイケル・ケインは労働者階級の出身、ジョン・スタンディングは貴族階級の出身で、二人はもともとの友達どうしである。さらにはグレンダ・ジャクソンも労働者階級の出身で、長く労働党で政治家および閣僚を務めていた。このへんのキャスティングは明らかに意図のあるものだといえるだろう。
●元ドイツ兵と心を通じ合わせるシーンも、演出自体はこれ見よがしでかなり気持ち悪かったが、シーンとしては悪くなかった。全体に言えることなんだけど、お互いに手を握り合わせるやり方とか、敬礼の長さとか、見つめ合うときの表情とか、この監督の演出って、どうも貧乏たらしいというか、観客に媚びてるというか、どこかテレビあがりの人みたいなんだよね(笑)。まあ、そういうのが好きって人もいるんだろうけど。
ちなみに、マイケル・ケインは何作もの戦争映画に出演しているが、ジョン・スタージェス監督、ジャック・ヒギンズ原作の『鷲は舞いおりた』(1977年)では、イギリスに潜入してチャーチル誘拐計画に挑むドイツ人将校役を好演している。
●戦没者墓地を老人二人が墓参するシーンについては、ときどき本感想欄でコメントを下さるお仲間の方から、『続・夕陽のガンマン』の墓地での決闘シーンと絡めて、ご紹介をいただいていた。たしかにおっしゃるとおりでした。観させていただきましたよ!!
●レネが、バーニーの不在時に、若き日に交わした熱いキスと初めてのセックスを想起しながら、内なる興奮と性的欲求を煽り立て、駆り立ててゆくシーンは、ほとんど「怪演」と呼びたくなるくらいの迫力と生々しさがあった。たとえ老婆ではあっても、間違いなく、淫靡で、官能的で、美しいシーンだった。
人間、90近くになってもああいう情動ってのは、実際にあるんだろうなあ。
●黒人のぽっちゃりした介護師の子は、本当にとても良い子だと思う。でも、あれだけ介護している相手の老人に入れこんじゃうような子は、決してこの職業に向いているとは言えないだろう。みんな、早晩亡くなっちゃうからね。
●「The Great Escaper」という原題は、出元はバーニーを探す警察官が面白がってつけたSNSのハッシュタグだが、当然ながら英米圏の人にとっては、ジョン・スタージェス監督、スティーヴ・マックイーン主演の名作戦争映画『大脱走』(原題 The Great Escape、1963年)を想起させるものだろう。あれも、「戦争とは何か」を語るとともに、アメリカなりの「ワーキング・クラスのしたたかさと反骨心」を描いた映画だった。
●エンドロールまぎわに、この映画が実話ベースの物語であることが、しっかりと確認される。ほぼそうだろうと確信をもって観ていたので、いい答え合わせとなった。
てか、お二人は結局、その順番で旅立たれたのね!! それはちょっと思いがけなかった……(笑)。まあ、現実ってのはドラマツルギーどおりにはいかないもんだ。
大脱走したマイケル・ケインは杖(ケイン)をついてビーチに立つ。
12月11日(水)
TOHOシネマズシャンテで公開終了直前の「二度目のはなればなれ」を。
「何を着ているんだ、ブルックス・ブラザース?駄目だ、これで仕立てて来い」と言ってカードを渡す「TENET」の時は英国紳士然としていたマイケル・ケインも、すっかり90歳の退役軍人だった。
「TENET」のあと常連ノーランの「オッペンハイマー」の出演を断って実話の映画化の本作を引退作に選んだようである。
グレンダ・ジャクソンも本作撮影終了後2023年6月に亡くなり遺作となった。
2014年、バーニーは杖と手押し車を使っての朝の散歩から施設に戻る。部屋の入口のマットにはwelcome。
Dデイ70周年記念式典への参加申し込みが遅れた90歳のバー二ー(マイケル・ケイン)は、妻レネ(グレンダ・ジャクソン)と住んでいる介護施設を抜け出し、一人ノルマンディーへと向かう。
レネに「あなたは行くべきよ」と背中を押され、戦争に出兵した時以来の二度目のはなればなれ。
ドーバーを渡るフェリーの中で知り合ったイギリス人の元空軍兵アーサーに誘われ、式典への参加チケットも手に入る。
フェリーに乗る時に手を貸してくれた若い乗務員も元軍人でアフガンの戦闘で義足になっていた。
バーニーは70年前のあの日に戦ったビーチに杖をついて立つ。あの日の戦いの記憶が蘇る。バーニーがノルマンディーに来たのはDデイで戦死した戦友の墓参りのためだった。
70年前に戦ったであろう元ドイツ兵と手を握り合い、式典参加チケットを元ドイツ兵に渡し、バー二ーは5千人の兵士が埋葬されている墓地に向かい戦友の墓を見つける。Dデイの日に彼から預かった彼女の写真と手紙が入った缶を墓に手向ける。
五千の墓が並ぶ墓地で彼は呟く「無駄死にだ」
施設ではいなくなったバーニーを探して大騒ぎになっていた。捜索願を出した事から警官のSNSで90歳が一人でフランスまで行った事がマスコミの知る所となり、施設にもカメラや取材が押し寄せ、新聞に写真が掲載され時の人となる。
施設に戻って来たバーニーはwelcomeのマットを踏む。
翌早朝、車椅子を押して海岸に出てレネと一緒に美しい朝日が昇るところを見るのである。70年前のあの朝のように。
「私たちは結婚してから1秒の時間もむだにしていない」
バーニーはその6ケ月後に、レネは更にその1週間後に亡くなった事が字幕で告げられる。
70年間相手を想いあって来た夫婦とそれを巡る周囲の人たちとの交流を描いた可笑しく、悲しく、楽しく、そしてちょっとつらい映画であった。
今日も世界の何処かでは、戦争で兵士や民間人が無駄に死んでいるのだから。
バーニー、自転車の空気抜いちゃだめよ。
一言「予想を遥か斜め上」
タイトルとポスターから、「老夫婦が過去を振り返りながら最後別れる」。
と勝手に想像してました。
違います。
Dデイ(米・英・カナダが、仏ノルマンディーに上陸した日。第2時世界大戦の分岐点)
の70年記念式典に出席するため、イギリス→フランスへ渡る老人の話。
それも老人ホームから抜け出して(←原題は「THe great escaper」)。
公開中なので軽く、胸にじんわりきた箇所2つ。
・戦友の墓参りシーン。ドローンを使った撮影が、ジーン。
・妻は夫のことを十分承知で、必ず帰ってくる!と包容力溢れてる。いい味でした。
随所に海岸線に佇むシーンがあって。
年配者ならではの重いセリフが随所に。
劇場で見るか若干迷った私に喝!。
観終わった後にじんわりシーンを思い出させる1作でした。
⭐️今日のマーカーワード⭐️
「任務完了」
無駄死にだー!
老害
長生きしたいとは思わない。
劇中の2人はちょうど両親世代。
日々ヨボヨボと心身ともに衰えていく両親に辟易しているのに、
日常以上にヨボヨボとした様を見せつけられる。
苦痛でしかない。
ストーリーもかなり微妙。
色々なバックグラウンドはあるとは言え、
私にはわがままもしくは認知機能の低下した爺が起こしたトンデモにしか思えない。
時々警察の行方不明者情報が流れてくるが、まさにそれ。
戦争の傷跡を今も引きずってはありがちな設定だし、
弟の方はともかく戦友の方はそんな?と疑問に思う。
とにかく全体的に浅くて心に刺さらない。
結構深刻なはずのところですら眠気に襲われた。
自転車の空気を抜くシーンは必要?
嫌悪感が増幅されただけだった。
ハートウォーミングな展開を期待していたのに、
こうはなるまいと強く決意しただけだった。
心温まる老夫婦の物語
老人ホームで暮らす老夫婦の姿を描いたヒューマンドラマ。ノルマンディー上陸作戦を経験した退役軍人のフラッシュバック映像を見るたびに心が締め付けられる。生き残った人間に与えられた役割をを果たそうとして生き続ける姿が印象的でした。
2024-194
ジイサンには身に沁みる
本作の原題『The Great Escape』は、ナチスの捕虜収容所からの脱出を目指す連合軍兵士を描いた傑作『大脱走』の原題と同じです。当然、それを意識したタイトルだったでしょう。ただ、あの映画は数十人の脱走を描いたものであったのに対し、本作はたった一人の老人の脱出劇です。
2014年、イギリスの老人養護施設で妻と穏やかに暮らすバーニーは、或る日、施設を抜け出して対岸のフランス・ノルマンディに向かいます。施設では、突然姿を消したバーニーを巡って大騒動になるという実話に基づくお話。彼は、ノルマンディ上陸70周年の記念式典に出席しようとしていたのです。その道中で、やはり式典に参加する老兵たち、元ドイツ兵たちと出会うと、上陸の日の激戦の思い出、戦争を巡る妻との思い出が蘇って来ます。そして、彼にはどうしても訪れたい場所があったのでした。
バーニーほどではないにしても、この歳になると「自分には遣り残した事があるのではないか」という思いは他人事とは思えず身に沁みます。「今からでもやっておかなくては」と「もう仕方ないか」が心の中で交錯するのです。
あの上陸作戦で亡くなった5千人近い戦没者に対して「無駄な死だった」と呟く場面は、イギリス人としてはかなり勇気のいる描写ではないでしょうか。
そして、名優マイケル・ケインは本作で俳優人生からの引退を表明し、妻役のグレンダ・ジャクソンは本作を最後に亡くなったと知ると、ジイサンは一層身に迫るものを感じるのでした。
本当にあった愛の話
胸がじ〜んとする名演でした💫
日本だけではないんだ。
日本では、本当は幸運なことなのに、自分だけ生き残った元特攻隊員が、こころの深いところで、自責の念にとらわれているという設定の映画が確か、過去何本かあった記憶がありますが、日本の特攻という特殊な環境によるものかと思っていました。
でも本作を観て、それが誤りであることに気づきました。
その「自責」は、国に対するものではさらさらなくて、まだあどけない顔のまま、自分の一番大切な人のことを思いながら、犠牲になった多くの者たちに対するものだということです。国に対するものなら戦勝国ではそうした感情はおこらないでしょう。でも違うのです。そのことが、ある秀逸なエピソードで明らかにされていきます。
日本だけではないんだ。そう思いました。
フラッシュバックのように70年前の二人と、今の二人の姿が交互に現れます。
踊り明かしたはち切れんばかりの若さと、いろいろなことがままならなくなった今の老いの対照の妙。大きく変わった二人ですが、確実に変わらないものがあったこともまた映し出されてゆきます。
なかなか生涯を添い遂げるのさえ当たり前ではない時代にそのこと自体に希少価値があるように思い、涙腺が緩んで仕方ありませんでした。
マイケル・ケインは、以前より、英国紳士風の温かな感じがよいなと感じていて、好きな俳優でしたがもう齢91歳なんですね。草笛光子といい勝負ですが、本作が引退作だそうです。相手役のグレンダ・ジャクソンはマイケル・ケイン同様、二度のオスカーを受賞している演技派の名優ですが、昨年6月、この作品の撮影後に87歳で亡くなられたそうです。色々ままならなくなった姿の演技は半分は本物だったのでしょう。昨年1月に亡くなった母の姿に重なり、胸が熱くなりました。
ご冥福をお祈りします。
第二次世界大戦から70年後のイギリスで、Dデイ記念式典に参加するため一人で旅立った男と彼に70年連れ添った妻を通し、人生のことを考えたくなる作品です。秀作。
鑑賞予定をしていない作品だったのですが
空いた時間に鑑賞できそうな作品を探していて
この作品を発見。作品紹介も気になりました。
そんな訳で鑑賞です。・_・
思いがけず、人生の深みを感じる良い作品でした。
老人ホームで暮らす、老夫婦が主役です。
夫婦で一つの部屋に入っています。
介護の必要が出てきたのは老婦人のほう。
一人で入居するつもりが、離れたくないとご主人。
自分も一緒に入居したのだそうです。仲良しさん。
「2度目の-」とタイトルにもあるように、過去に1回目の
はなればなれがあった二人。第一次世界大戦に出征する夫を
見送ったのが最初だったようです。
2回目めとなる今回。Dデーの70周年記念式典(?)にどう
しても参加したかったご主人=バーニー。
正式な申込みには間に合わず(抽選に漏れた?)単独でフランス
に渡ろうとしていました。
自分の年齢・体力・体調から考えて今年が恐らく最後の機会。
妻=レネに相談すれば、多分止められる。
どうしても-と主張すれば、その理由も話さなければならなく
なる…。70年前に何があったのか、についても。
一人で老人ホームを抜け出してフランス行きの船に乗るバーニー。
うーん。90オーバー老人の失踪事件発生。@_@
#「ハロルドフライの-」が頭に浮かびました。年寄りの一人旅。
# いや、船の中で私立大学の理事長だという老人に声をかけられ、
# 同行することになるので二人旅ともいえるかもですが…。
どちらの作品の主人公も、人生の残り時間の少なさをきっかけに
心に刺さったトゲの後始末に行くかのような行動に見えました。・_・
失踪を知った老人ホームでは、スタッフが警察に捜索願。あらら
…いや、そうしない訳がないのけれど ・-・;
やがてフランス行きの船に乗ったことが分かり、それを知って
バーニーがDデー記念式典に言った事を察するレネ。
一方、レネの側にも、現在進行形で夫に内緒の秘密がありました。
次第に悪化している心臓の病気。狭心症。
医者から「厚い本を読み始めるのはやめた方が良い」と冗談混じりに
言われてしまう程度に進行している様子。
読み終える前に命が…ということなのでしょう。…なんか笑えない
介護担当の若い女性が、バーニーに伝えないのか?と聞いてきますが
レネにはこの事をバーニーに伝える気が無いのです。
” 伝えたところで、バーニーを悲しませるだけよ ”
貴女もバーニーに話したらダメと念を押し、夫の帰りを待つレネ。
◇
と、この夫婦の70年前と今日との姿を描いた作品です。
バーニーもレネも、それぞれ相手を想って生きてきたことが分かります。
人生の重みを感じる晩年です。
ただ、バーニーには生きている内に精算したい過去があったのです。
最初の戦争で同じ戦場で戦った戦友が命を落としてしまうという過去。
自分が「上陸しろ」と言ったためだと、ずーっと心に想い陰となって
いました。そのことを誰にも(レネにも)告げられずに、70年の年月が
過ぎていたのです。
” レネにその話をすれば、黙って聞いてくれるだろう ”
” ただ、レネに余分な悲しみを共有させてしまう… ”
この機会が最後だろう と、一人で老人ホームを抜け出すバーニー。
うーん。深いストーリーです。
余韻も素晴らしい。秀作です。
観て良かった。
◇あれこれ
■戦後
バーニーにとって戦争は終わっていなかったのですよね。
70年前に戦場だったフランスへ渡り、彼の墓標を見つけて
そこでようやく彼の戦いも終息したのでしょう。
自己満足といわれたとしても、区切りは必要と思います。
戦争で「人に言えない秘密」を抱えて島た人の数、決して
少なくないものと推察します。・_・;
■当時の敵、今は?
イギリスもアメリカも。前線で戦ったドイツ人も。
70年という時間は、当時の敵を「生き残った同士」にする と
そういうものなのでしょうか。はて。
あのドイツ人が何を思って記念式典の会場にいたのか
その理由を考えることを、忘れてはいけない。
そんな気がします。
■墓場まで持っていくもの
相手のためを思えばこそ、相手に話さないこと。
バーニーは戦場での自分の判断を悔やみ続け
レネは自分の病気を隠して普通に振る舞い続ける。
夫婦なのに隠し事なんてしませんよ。 という夫婦もあれば。
夫婦だからこそ話さないことがある。 との夫婦もきっといる。
どっちが正しいか などという話では無いと思うのですが
共に前者を選んで、やり遂げたバーニー夫婦に敬意を表します。
◆あれはどうなったのでしょう?
後で思い出して気になったのが2点。
・預かった「手紙と写真入りケース」をどうしたのか?
・爆弾投下した街にいたかもしれないという弟の安否?
見落としたのかもしれませんが、この話がその後どうなったのか
分からなくて気になってます。?-?
※パンフレットに載っていないかと、購入しようと思ったのです
が「販売無し」でした。なんてこったい。。
◇最後に
” ミッションコンプリート ”
そう言いながらレネの元に還ってきたバーニー。
フランスに行った目的を尋ねることもなく、ただ労うレネ。
” けれど、次に遠くにいく時は一緒にいくわ ”
そして半年後、バーニーはこの世を去り
レネもその1週間後に亡くなったとのこと。
病気のこと、最後までバーニーには隠し通せたのでしょうか。
バーニーも、気付いても知らないふりをしていたのかも …とか
さりげなく最後まで一緒だった夫婦の素敵な物語でした。
☆映画の感想は人さまざまかとは思いますが、このように感じた映画ファンもいるということで。
マイケル・ケイン引退作
概ね高評価だらけの本作ですが
バーニーがなぜあそこまでメディアに
持て囃されるのかが
全然わからない💦
90歳越えたおじいちゃんだから?
ひとりで参加したから?
んー。そんなに盛り上がるんだぁ。と
なんだかその辺に全然ハマれず
あとあとになって「まぁそうなるか🤔」とは
思ったけれど
鑑賞中はなんだかシラケてしまったんです、わたし💦
大戦をくぐり抜け戦争の悲惨さに
もがき苦しみながらも
レネとの生活はとても幸せそうだったし
まさかバーニーの方が先に他界するとは
思わなかったけど。
バーニー役 マイケル・ケインは
本作を最後に引退し
レネ役のグレンダ・ジャクソンは
2023年6月に他界しており本作が
長編映画遺作となったそう。
往年の大スターが引退や他界
寂しい限りです。
とても可愛らしい茶目っけあるレネ
バーニーの人を引き寄せる魅力
こんないつまでも誰からも愛される
老人になりたいなと思いました。
いささか話の整理が悪いような
懐かしいマイケル・ケインは、そのまんま老いていた。鋭い光は消えたものの、哀しげな瞳が相変わらずミステリアス。
グレタ・ジャクソン、残念ながら若い頃は知らないが、なんてコケティッシュなおばあさま。白い肌、よく動くハシバミ色の瞳。可愛く昔懐かしい感じの藤色のセーターがよく似合う。粋というのか、こんな風に老いたいと思わせる。
この2人の演技に圧倒された。90歳も近いのに、まったく俳優とは!セリフを覚えるのも大変だったかもしれないのに、そんなことは微塵も感じさせない。老練の魅力でもたせているのではなく、現役の確かな演技力で役柄を生き生きと見せてくれる。
ストーリーがシンプルなので、これは盛らねば、と思ったのか、老夫婦以外のエピソードが多くて編集がバラけてしまったように思えた。群像劇としてならわかるが、バーニーとレネ夫婦の話だと思っていたから。
実話にせよ、大脱走とマスコミに騒がれた顛末は、あまり映画の本筋には関係ないし、もっとバーニー自身のトラウマ、1度目のはなればなれのときの情景、その後の2人の一緒にいられた長い時間をもっと知りたかった。老人ホームにいるからといってお子さん、お孫さんがいないとは限らないし、よく背景がわからないので、ちょっと不完全燃焼でした。
70年
#21 第二次世界大戦の思い
夫婦の絆を描いた作品かと思っていたら、意外にも戦争のトラウマものだった。
大戦に参戦した国の国民ごとに色々な思いがあるんだろうけど、ノルマンディ上陸についてはほとんど知識がなく、どの国の人がどのくらい戦死したか知らないせいか主人公の気持ちもよく理解できず。
どっちかと言うと奥さんの気持ちのほうが寄り添えた。
それにしてもイギリスの老人用共同住宅にエレベーターがないのには感心した。
一旦筋肉が衰えると元に戻らないから、時間がかかっても階段を昇り降りさせるのは良いかも。
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