「わかり難かったけれど、緊迫感はあった」越境者たち てつさんの映画レビュー(感想・評価)
わかり難かったけれど、緊迫感はあった
序盤でのサミュエルの境遇がわかり難かった。バスに乗って身分証を確認していたので、サミュエル自身も国境の検問を通るのに不安を抱えていたのではないかと感じてしまった。チェレーを探していた3人組は、サミュエルとは馴染みで、初めはみのがしていたので、どういう立ち位置なのか、よく理解できなかった。サミュエルを演じる役者の顔にみおぼえがあり、『ジュリアン』では悪役だったので、本作でも悪役になるのではないかと懸念したが、そうではなかった。チェレーがアフガニスタンからの難民であり、国境を越えようとしているが、妨害を受けているというのは、難民映画祭で上映対象になっていた『シャドー・ゲーム』『マインド・ゲーム』につながる設定なのだろう。雪山を進む逃避行というのは、時代は異なるが、『永遠のジャンゴ』のようでもあった。季節を選ぶことができないほど情況が切迫していたのだろうか。3人組は、軍隊でも警察でもないようで、まさに自分たちの正義を一方的に振りかざす自警団めいた集団であるようだった。フランスもドイツも、議会選挙結果が右傾化しているという。すでに北欧のフィンランドでも、『希望のかなた』に描かれていたような差別が蔓延っていた。最後の検問を擦り抜ける場面は、『娘は戦場で生まれた』にも似た感じを受けたが、偽装なので、それ以上の緊迫状態ということであろう。あるいは、検査官も、わかっていてみのがすという作品もあったかもしれない。本作の終わりに描かれているような支援組織の存続に期待をつなぐばかりである。題名で複数形になっているのは、そうした移民たちの背景も含めて想像しろ、ということなのか、サミュエルの行動もそうだったということなのかとも考えられる。