「設定そのものが古臭く、静謐さが退屈に感じられてしまう」徒花 ADABANA tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
設定そのものが古臭く、静謐さが退屈に感じられてしまう
人体のスペアを提供するためのクローンという設定は、既に使い古されているような気がするが、カズオ・イシグロが原作を書いた「わたしを離さないで」にしても、ユアン・マクレガーが主演した「アイランド」にしても、マルチメディア・ミックスの「約束のネバーランド」にしても、いすれも、クローン達が主人公であるのに対して、臓器提供を受ける「本体」の立場から描かれているのが、本作の新しさだろうか?
ただ、今の時代だと、クローンよりもiPS細胞の方が実用的であることが分かっているし、臓器移植のためだけにクローンを育て、養い、教育することに時間と労力をかけることの非現実性も気になってしまう。
しかも、ウィルスのせいで出生率が低下して、子供は「宝」のはずなのに、冒頭で、いきなり少女の命を切り捨てるような描写があったことには、首をかしげざるを得なかった。
カウンセリングの途中で主人公が回想する、夜の海で泳ぐ近くのレストランの女や、子供の頃の母との思い出に、どんな意味があったのかもよく分からない。
さらに、命を犠牲にしようとしているクローンと、そのおかげで生き永らえようとしている「本体」を会わせても、お互いに「情」が湧いて、ろくなことが起こらないのは目に見えているのに、どうしてそれが許可されたのかも理解できない。
最後は、「自分よりもクローンの方が生き残る価値がある」と思うようになった「本体」が、クローンと入れ替わる話になるのかと思ったが、どうやら、「本体」は手術を断っただけのようだし、カウンセラーの女性が、「自分はクローンなのではないか?」と疑い始めて、一体、何の物語なのかが分からなくなった。
結局、作り手は、「アイデンティティーの不確かさ」のようなものを描きたかったのかもしれないが、その割には、テンポが悪く、語り口が冗長で、退屈に感じられたのは残念だった。