「未来を感じられないのが残念」徒花 ADABANA 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
未来を感じられないのが残念
ウィルスの蔓延により人口が激減したことに対処するため、「あれ」を使って人間の寿命を延ばす治療を行っているという近未来のお話でした。「あれ」とは自分のクローン。何か病気をした場合に、クローンを使った延命治療を行おうという技術が開発されたものの、「あれ」を使った治療が出来るのは上流階級の人のみ。平民には使えないシステムであることが冒頭描かれ、この辺りは75歳以上の老人には自死する選択肢が与えられる近未来を描いた「PLAN 75」を想起させられましたが、貧富による”命の値段”の格差に関しては、本作の主題ではありませんでした。
ではどんなことがテーマだったのか?思うに自分の内面にあるもう一人の自分と面と向かうことで、自分の実像を知る怖さを表しているということではなかったかと感じました。本作で登場するクローンによる延命治療という概念は、勿論SFの世界ではありますが、井浦新演じる新次が自分のクローンと話すことで自らの来し方を振り返るという流れは、何もクローンが居なくても出来ることです。自分の過去を見つめ直すことで自分に価値を見出せれば幸福感はアップしますが、そうでなければ逆に自我は崩壊することになり兼ねない訳で、この辺は純文学チックな作品だったなと感じたところです。
ただ、どちらかと言えば刺激を求めがちな私としては、今ひとつ物足りなさを感じたのも事実。クローンを使って延命治療をする技術が開発された近未来を描きながら、今ひとつ未来感が感じられないところがその一因でした。マイナンバーカードを模したと思われる”国民カード”なるものが登場しましたが、投下した費用の割にメリットが少なく、それどころがトラブル続きのマイナンバーカードが、クローン技術が発達した時代においても使われ続けているのを見た瞬間、「これって本当に未来なの?」と思ってしまいました。その後も自然の中に建設された医療施設の内外が舞台であり、全然未来感はなし。まあ本作の主題はそこにはないということなんでしょうが、表面的には美しくも、実はディストピアっていう未来を期待していた私としては、ちょっと残念な未来の描き方でした。
そんな訳で、本作の評価は★3.5とします。