「やるじゃないか!」パリのちいさなオーケストラ 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
やるじゃないか!
実話をもとにしたこの映画は、主人公の女性ザイアが子供の時(7歳頃か)、TVから流れたラヴェルの「ボレロ」の演奏から始まる。
指揮していたのは、ルーマニア生まれの伝説的な名指揮者セルジュ・チェリビダッケ(愛称チェリ)。ザイアは、アルジェリア移民の子で、パリ郊外のサンス(サン・ドゥニの近く)に両親と暮らしていた。
10年後、17歳のザイアは、とても忙しい。
週日の午前中は、双子の妹フェットゥマと共に編入を許されたパリの名門高校リセ・ラシーヌの音楽特別クラスで学ぶ。特にオーケストラの練習が中心。早速、演奏会の演目の一つドヴォルザークの交響曲「新世界より」の指揮を任される。午後は、もともと所属しているサンスにある音楽院でビオラを中心に、フェットゥマはチェロを学ぶ。
でも、翌年のブザンソンの国際指揮者コンクールを受けたいので、ピアノが上手な学生を相手にプロコフィエフの「ロミオとジュリエット」の一節を指揮する練習をする。
どうやら、指揮は別の音楽院(シューベルト音楽院と聞こえた)でも学んでいるようだ。
日曜日には、チャンスを得て、チェリの講習会に参加する。
やがて土曜日には、パリで知り合った仲間にも加わってもらい、サンスの音楽院の同僚や先生たちと「ディベルティメント」と呼ばれるオーケストラを結成する。これが、彼女の行方を決めることになる。
アラブ系のうら若い女性が指揮者になるとの希望を叶えるためには、独自のオーケストラが必要だったのだ。でも、その背景には、彼女が行ってきた刑務所への慰問、子供たちへの音楽の教育、障害を持つ人たちを音楽に巻き込むことも、深く関わっていたような気がする。もちろん、サン・ドゥニ周辺の行政の応援もあったに違いない。
この映画で、どこが一番よかったか。やはり音楽が流れるところ。
特に、もともとアラブ・イスラムの影響の強いスペインを舞台にした天才ビゼーの「アルルの女」。それから、途中でアラブを思わせる旋律が出てくるサン=サーンスのオペラ「サムソンとデリラ」からバッカナール。きっと、これらは、本物のザイアとフェットゥマの選曲だろう。もしかすると演奏も!
チェリは、晩年愛したブルックナーの交響曲について「始まりのなかに終わりがある」という言葉を残している。いつか、ザイアと「ディベルティメント」によるブルックナーの交響曲を聴きたいものだ。