「作家が感じた理不尽さ」私にふさわしいホテル R41さんの映画レビュー(感想・評価)
作家が感じた理不尽さ
何とも形容しにくい作品
小説の実写化と知り納得した。
文壇をモチーフに主人公のある種特殊な攻撃的な性格を描いているのだと思う。
その根幹は、彼女の新人賞受賞に対する東十条宗典の痛烈な批判的意見だった。
昔から女を怒らせると怖いなどというが、「それ」。
そして舞台設定が何故か1984年 何故だろう?
おそらく当時の雰囲気と、ワープロが登場したころで、まだ一般的ではなかったころ。
つまり作家というのは手書きだった時代のことで、その当時をこの作家はイメージしたのだろう。
物語に登場するように、名だたる作家は皆ホテルに缶詰めになって原稿を書いていたことが、どこか懐かしく、どこか憧れだったのだろう。
新人作家をモデルにしたのは、作家本人が当時感じていた周囲からの誹謗中傷などに対し、その当時激しく思った念のようなものをこの作品で処理、昇華したかったからかもしれない。
発想は「ルックバック」に近いように思った。
「もし、当時わたしがこんなことができたなら…」
これがこの作品の発想の根源なのだろう。
さて、
このタイトルは、主人公が最後に描いた小説のタイトルだった。
着地点は怒りの感情ではなく「私のためのホテル」となっている。
紆余曲折あってもまたこの「山の上ホテル」へと帰ってくるのだ。
怒りの感情は後付けで、実際に彼女がしたいのが小説を書くことなのだろう。
遠藤先輩と彼女が文芸部の先輩後輩ではなく、まさか演劇部のそれだったというのは東十条先生よりびっくりした。
また、
なぜ彼女はそんなにたくさん名前を変えるのだろう?
本名中島加代子 →相田大樹 →有森樹李
東十条には白鳥こおりと名乗る。
創作活動よりも工作活動が際立つ。
そうしながら、自分自身で本を置かせてもらう書店などを回る。
そこで見た窃盗犯 男を取り押さえることでカリスマ店員から信用された。
それがきっかけとなり、本が売れたのだろう。
ハチャメチャな物語だが、彼女の満たされない悔しさを感じることができる作品。
当時も、今もある業界の理不尽さ
そこには純粋な書き手の想いを踏みにじる大物たちの勢力争いしかないのかもしれない。
過去の芥川賞受賞作家の男性が「仕方ないからもらっといてやる」という発言をしたことが物議を呼んだ。
1,2年前も、受賞した障害を抱える女性作家が、受賞の喜びよりもずっと無視し続けられてきた経緯を恨み節に様に言った。
ノーベル文学賞というが、2022年ノーベル文学賞受賞者アニー・エルノーの自叙伝小説「事件」の実写版「あのこと」
これは、文学なのだろうか? フランス人だからではないのか? と勘繰りたくなる。
文学は、本当に文楽にすべきだろう。
小説は、客観的に感じることができる絵画や彫刻とは違い、口先だけの論評などいくらでもできる。
むしろしたもの勝ちなのだろう。
文芸小説が読まれなくなった最大の原因こそ、受賞作を選択する者たちの汚い争いだろう。
この作品はそんなところまで想像させることで、純粋な書き手の想いを代弁しているのだろう。
何とも形容しにくいものの、文壇に対する一矢はしっかりと感じた。