「のんさんの魅力あふれる秀作だと思われました、気になっている人は是非‥」私にふさわしいホテル komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
のんさんの魅力あふれる秀作だと思われました、気になっている人は是非‥
(完全ネタバレなので必ず鑑賞後にお読み下さい!)
結論から言うと、今作を大変面白く観ました。
特に、主人公・中島加代子(相田大樹/白鳥氷/有森樹李)を演じた、のんさんの魅力があふれる秀作になっていたと思われます。
今作の映画『私にふさわしいホテル』は、作品内容としては以下の3点の良さが個人的にはあったと思われます。
1.主人公・中島加代子の、文学(あるいは対立する大物作家・東十条宗典(滝藤賢一さん))に対する深いリスペクト
2.1のリスペクトありながら、あくまで主人公は自分だと、自分発信に変換するこだわり
3.(自身の具体的出自ではなく)表現された作品こそが重要だとの主張
まず、私的感じた作品の1点目の良さの具体的内容は以下だったと思われます。
主人公・中島加代子は、相田大樹の著者名で新人賞を取るのですが、大物作家・東十条宗典からその作品を酷評され、以降の作家生活に苦労し、東十条宗典への恨みを晴らすことを誓います。
しかし一方で、主人公・中島加代子は、大物作家・東十条宗典の作品を全て読んでいて、東十条宗典の好きな歌まで把握していて、根底には東十条宗典への、あるいは文学全般に対しての、≪リスペクト≫があります。
この、主人公・中島加代子の、その≪相手や場への多大なリスペクト≫が、1点目の作品の良さだったと思われます。
私的感じた作品の2点目の良さは以下です。
しかし、主人公・中島加代子は、相手や場への多大なリスペクトがありながら、決してその相手や場への【依存的な態度】は取りません。
主人公・中島加代子は、相手や場へのリスペクトを、あくまで[自分発信へと常に置き換え]、自分からの表現に転換して行きます。
この(1点目の、相手や場へのリスペクトとは真逆とも思える)、あくまで[自分発信へと常に変換する]主人公・中島加代子の表現のやり方が、2点目の良さだと思われました。
そして、私的感じた作品の3点目の良さが以下だと思われます。
主人公・中島加代子は、大物作家・東十条宗典と一時休戦をして、2人を蔑ろにする発言をしていた編集者・遠藤道雄(田中圭さん)に反撃するために、クリスマスの日にトナカイとサンタの扮装をそれぞれして、遠藤道雄の子供たちを騙して彼のホテルの部屋に乗り込もうとします。
その作戦は遠藤道雄の子供たちに嘘サンタだと見破られ失敗するのですが、その帰りの歩道橋の上で、大物作家・東十条宗典は、主人公・中島加代子の出自を聞き出そうとします。
しかし主人公・中島加代子は、大物作家・東十条宗典の作品の中の愛人の子供だと嘘のかわし方をしながら、<出自よりも作品の方が大事だ>、との趣旨の主張をします。
この場面での、主人公・中島加代子の、<出自よりも作品の方が大事だ>との主張は、私には優れていると感じられました。
なぜなら、どんな人もそれぞれの出自を持っていますが、いざ人々の関係性や社会の中に入って行くとそこで歪みが生じます。
そして、その人の(出自そのものではなく)出自と、関係性や社会とを、<橋渡しする歪み>の方が重要になると思われるのです。
つまり、1観客の私には、個人の出自と、関係性や社会とを、<橋渡しする歪み>こそが、<表現であり作品>であり、その<(出自と、関係性や社会を橋渡しする)表現や作品>の方が大切じゃないか!と主人公・中島加代子は主張していると、感じられたのです。
[2.自分発信の強さ]と、≪1.相手や場へのリスペクトの深さ≫は、それぞれ真逆ですが、両者が強く深くあればあるほど両者の歪みや矛盾は増大し、<3.両者を取り結ぶ表現>は強度と深度の要求を増して行くと思われます。
その(個人の出自と、関係性や社会とを)<橋渡しする歪み(矛盾)である表現(作品)>こそ重要なのだ!、という主人公・中島加代子の主張は、今作を通じて根底の一貫性があり、私達の普遍性にも通じていて、静かな感銘を受ける内容になっていたと思われました。
以上の私的感じた作品の3点の良さが、今作の映画『私にふさわしいホテル』を全体を通して優れた作品にしていると思われ、さらに、主人公・中島加代子を演じたのんさんの強さと深さと幅のある説得力ある演技によって具体化され、今作を秀作にしていると、僭越ながら思われました。
惜しまれるのは今作の時代背景が1980年代の話であった所で、仮に今作の設定が現在に置き換えられ、今の文学状況も踏まえた上での現在の私達をリアルに突き刺す内容になっていたとすれば、今作は(私的)傑作にもなり得たとは、一方で思われました。
しかしそれを差し引いても今作は、のんさんの魅力も爆発している素晴らしい秀作であったと、僭越ながら思われました。