「圧からのカミングアウト」KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
圧からのカミングアウト
クリエイターのMaggie Kangは幼いときカナダへ移り住んだ韓国人だそうです。彼女は実質カナダ人で、これはアメリカ映画ですがKubo and the Two Strings(2016)が日本をよく調べてあったように、本作も韓国やKpopをよく析出していると思います。
キャラクターについて、かっこいいヒロイン像よりも『ぽっこりお腹でゲップをし下品で間抜けで楽しい女の子』を目指したと述べており、事実そうなっていて、人物に斬新な命を吹き込んでいます。
ただし、そのコミカルな人物描写を担保していたのは所謂スーパーデフォルメだったと思います。漫画で喜怒哀楽時にあらわれる誇張表現があります。焦っているときの額に滴マークとか、号泣時の目から滝とか、怒った眉間に井形とか、びっくりしたときの顎外れとか、突然のちびキャラ化とか、あるいはシティハンターの100tハンマーとか、手塚治虫でいうならヒョウタンツギとか、わたしたちにとって見慣れたそれらの漫画表現が輸出され技法として浸透・定着し、今やSDは日本の漫画が発祥だとは認識されていません。それが苦々しいという話ではなく、キャラクターの表情に日本の漫画の影響を強く感じたという話です。
われわれは発祥について韓国ほどこだわりませんが、実質主役のルミは日本発祥の名前だと思います。主役に日本発祥の名前をつけていることからもアメリカ映画であることがわかりますが、出てくるのは韓国人らしき人々だけで白人も黒人も出てきません。
書き下ろしたサウンドトラックに、選りすぐりのシンガーを声優に充て、PVと感動のストーリーが融合したようなハイブリッドな映画体験になっています。
映画はすこぶる上手でプロフェッショナルでした。
描かれていたのは使命と友情だと思います。ルミミラゾーイは悪鬼狩りのスーパーヒーローとKpopアイドルを兼業しており、といって難しい話はいっさいなく、ジュブナイルとロマコメの中間で美しいシンデレラ曲線を描きます。何に感動しているのか全く解らないのに感動させられます。ジヌとルミのエモすぎるエピソードには涙腺を緩ませながら、こんなものに泣かされてたまるかよと抵抗している自分に気づくに違いありません。
Maggie Kangが語ったテーマはハンターでありながらデーモンの印を併せ持つルミのカミングアウトでした。
『ルミの物語は、彼女がクローゼットから出てきて、親に本音を打ち明けるようなもの。親は彼女に、彼女自身ではない何者かになってほしいと望んでいる』とMaggie Kangは述べています。
それは人に言えない悩みを抱える若者の普遍的な姿です。人に言えない悩みとは、ルミが持っている内なるデーモンに象徴されるものであり、ジェンダー問題や自閉症など自分自身を閉じ込める殻の例えです。
映画はPopでコミカルで民間伝承も織り交ぜながら、時事や多様性への配慮を物語に仕込ませていました。
2025年7月末にNetflix史上最も視聴されたオリジナルアニメ映画になった──との同社公表がありました。RottenTomatoesにおいても映画は好評で、批評家からも一般観衆からも好かれています。
ただし日本漫画の影響を指摘している人もレビューもありませんでした。もちろん日本人がつくるアニメとは違います。にしても個人的には日本漫画の誇張表現に多大な影響を受けたアニメ映画だと感じたのでした。
imdb7.7、rottentomatoes97%と91%。