劇場公開日 2024年8月9日

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「映画内での描写が複数ある説の中の一つであることに触れて欲しい」ノリャン 死の海 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5映画内での描写が複数ある説の中の一つであることに触れて欲しい

2024年8月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

今年289本目(合計1,381本目/今月(2024年8月度)14本目)。
※ (前期)今年237本目(合計1,329本目/今月(2024年6月度)37本目)。

(前の作品 「ブルーピリオド」→この作品「ノリャン 死の海」→次の作品「??」)

 韓国映画が好きならシネマート、ということでシネマート。10月末ちょっと前に閉館してしまうのが惜しいですね。今後どうなるかわかりませんがまたどこかが引き継ぐなら行くでしょうし、日本最大のコリアタウンがある大阪においてアジア系映画が見たいと思ったら行ける映画館というのはあって欲しいものです。

 さて、こちらの映画です。
この映画の主人公を誰に取るかは微妙なものの、当該人物の「生死」については中学レベルでも学習しますので、結末はどうしてもわかってしまう部分があり、どうしてもどこで見せるか、という部分に大半つきてしまいます。

 この点、映画をエンターテイメントと解するならこの映画のような描き方でもまだよいかなとは思ったのですが、この作品は私がタイトルにも書いたように、「韓国国内でさえ」あまり評価がよくない映画で、その理由が「複数ある説の一つであることに触れずあたかもすべて実史かのように描くのはおかしい」といったものですが、その部分は確かにあります(後述)。

 また、前作であった謎の「スーパーオリジナル版」や「字幕版」といった謎の差はなくなり結局「普通の字幕版」だけの扱いになりました(日本人、中国人パートで声を当てているのはおそらくそれぞれネイティブの方と思われます)。ここもまたひと悶着あるんじゃないかと思いますがそれはそれで。

 どうしても結末が見えてしまう映画なので、そこにいたるまでの道のりをどう描くかがこうしたタイプの映画に求められてしまうところ、やはり個々気になる点があります。

 採点に関しては以下まで考慮しています。

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 (減点0.3/字幕が不親切な部分がどうしてもある)

 もともと韓国映画で、それもかなり韓国史(日本で日本史を習うように、韓国の大学入試でも「自国史」にあたる「韓国史」は必須科目)の知識が求められるのは当然ですが、それは地理についても同じです。一応、余りにも難易度が高すぎる語は補足字幕がネイティブ向けにも入っており、日本語版でもそうなっています。

 ただ、最初に出てくる「順天」(スンチョン)と、のちに舞台となる麗水(ヨス)については「近くにあるのだろう」ということはわかっても位置関係が何ら示されないので、どのくらい近いのか遠いのかというのがよくわからず混乱する方が出てくるんじゃないかというところです(実際には、現在の麗水・順天は市として接しており韓国内の鉄道でも4駅15分程度)。ここはもうちょっと日本向け放映ではもう少し説明があってよかったかなと思います。

 (※) 韓国史ではこの2つの都市は、この日本との戦いで必ず出てくる部分ではありますが、歴史がとんで1948年になると、済州島蜂起事件から単を発した麗水・順天事件が起きた場所にもあたり、2つの側面がある地域です。

 (減点0.3/いろいろな説の一つであることに触れてほしかった)

 この点、韓国国内向けの(日本語による)批評においても批判的に描かれていた部分がそのまま当てはまります(最近は韓国の新聞サイト、ニュースサイトも日本語で普通に配信されるようになりました)。つまり、この戦いにおける勝者をどうとらえるかといったある種「どうでもいいこと」ではないことです。

 韓国国内でこの映画で一番評価があれたのが「複数ある説の中で一つの説であろうということしかわからないのに断定的に描いている」と批判的に書かれた点が、この戦いのときにまで、イ・スンシンが亀甲船を使用していたか?という点で、これに関しては韓国史においては資料が何も存在していない部分です(そうでなければこの点で論争は起きない)。一応、韓国でも日本のように初日などに舞台挨拶等がある文化は同じであるようですが、「あったと考えるのが普通で、それを前提にしてスクリプト等を書いた」ということの模様で、それはそれで当然理解しうるものの、一つの説であることは最初に書いておいて欲しかったです。

 また、映画内では明確に示されるように、イ・スンシンも「列島の果てに押し寄せてでも討ち取らないといけない」と述べていて、ここは史実通りですが、これは「これ以上また朝鮮半島で戦闘が起きても困るから」というもので、「積極的に日本列島を武力で占拠しよう」という考えは彼にはなかったといわれます(この点は間接的に描かれる)。これは、どうしても明の属国であった当時の李氏朝鮮において、「日本まで仮に攻め入って戦乱を経て管轄できえても実際にはできない」という部分によります。換言すれば、今の日本の自衛隊(防御的な戦いしか認められない)と変わらない思想であった、ということです。
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 (減点なし/参考/パンフレットについて)

 このように全体としてわかりづらい映画はやはり「映画の鑑賞記念に」以上に、パンフレットに頼る部分もありますが、パンフレットはなんとこともあろうことか「豊臣秀吉が1958年に没し…」という珍妙なミスプリ(誤植か)があります。まぁほか見た限り変な部分はないし、シネマートさんが悪いわけではないし(まぁ最低限の納品を兼ねたチェックで明確におかしい点がないかは見て欲しかったけど)、ツインさん(この映画の配給先)も積極的悪害をもってしたものではないと思いますが、公式サイトの問い合わせフォームは動かないし、ツイッター(現X)で指摘しても何の反応もないし、こりゃこれでどうなんだ…といったレベルです(まぁ土日、お盆で忙しいんだろうなとは思うんですけど)。

 ※ なお、この珍妙な誤植があること以外は気になった点はなく、映画内で何度かいわれる「将軍星」が何を指すのかも言及なし(おそらく金星。太陽と月以外でお昼に見えうる天体は金星しかありません)。

yukispica