「面白くは観たのですが、私的乗れなかった理由について」あたしの! komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
面白くは観たのですが、私的乗れなかった理由について
(完全ネタバレなので必ず鑑賞後にお読み下さい!)
今作の映画『あたしの!』は、それぞれの主要登場人物の関係性の描き方も出来ているし、ストーリーの展開はあるし、優れた作品になる要素がちりばめられていると感じました。
なので基本は面白く観たのですが、一方でドライブ的な面白さが上昇して行く作品でもなかったとは思われました。
その理由は以下の私的感じた3点の欠点に要因があったと思われます。
私的感じた1点目の欠点は、(主人公・関川あこ子(渡邉美穂さん)が想いを寄せる相手の)御共直己(木村柾哉さん)に、映画の設定として周りを圧倒的する魅力がなかったと、(1観客の私には)思われた所です。
御共直己が、主人公・関川あこ子と、あこ子の親友の谷口充希(齊藤なぎささん)を、カラオケ店でナンパを仕掛けて来た男性グループから守る場面があるのですが、御共直己がその時、ケンカの強さを発揮する具体的描写はなかったと思われます。
また、御共直己の留年理由も単に出席日数の計算ミスでしかなく、とても魅力ある人物には思えませんでした。
主人公・関川あこ子や親友・谷口充希を振り回す御共直己の存在は、映画の重要な柱の1つであって、映画の質を決定づける重要な要素になっています。
例えば、御共直己は、留年はしていても裏側に家庭の事情や別の事情があったとか、(あるいは留年の不真面目さの欠点を補う)運動が抜群に出来るとか、音楽などの芸術的な才能にあふれているとか、語学力だけは抜群だとか、どんな女性にも分け隔てなく優しいとか‥
何でも良いのですが、学校中の女生徒から告白が殺到する説得力が何かあれば、また映画の印象も違ったとは思われました。
私的感じた2点目の欠点は、主人公・関川あこ子と親友・谷口充希との関係性の、小学生時代からの一貫性ある描き分けの分かり難さです。
映画の冒頭で、小学生時代のいじめられている親友・谷口充希と、いじめをとがめる主人公・関川あこ子との描写があるのですが、高校時代になって、どちらが小学生時代にいじめられていたんだっけ?と、正直、私には混乱がありました。
なぜなら、高校時代(現在)の主人公・関川あこ子は、周りにお構いなしに行動する人物として描かれ、その空気の読めなさから実際にハブられ気味の描写もありました。
すると、周りを見れていない性格の主人公・関川あこ子の方が(その空気の読めなさから)実際とは逆に、小学生時代もいじめられていたと考えた方がしっくりくると思われたのです。
この主人公・関川あこ子と親友・谷口充希との描き分けの小学生時代からの一貫性の弱さは、映画の最終盤で、親友・谷口充希が何事も積極的な主人公・関川あこ子にあこがれがありいつも追いつこうと思っていて、ついには高校時代に横に並ぶことが出来たとのエピソードが話されることで、理解することは出来ます。
つまり、小学生時代は圧倒的に前を走っていた主人公・関川あこ子は、高校時代には既に親友・谷口充希に並ばれていて、2人の関係性と立ち位置は、小学生時代の頃からずいぶんと変わっていたということです。
それならば、高校生の今の2人の関係性から振り返れば、小学生時代はどちらがいじめられていたんだっけ?、とこちらが勘違いするのは仕方がない話です。
しかしながら、小学生時代にどちらが相手をいじめから助けたのかは、これまた映画の根幹を成す話で、観客にきちんと理解が届いていないのであれば致命的です。
このことは、小学生時代と今とで、主人公・関川あこ子と親友・谷口充希との立ち位置が変わっているとの描写が、最終盤でしか描かれない所に要因があったと思われます。
露骨に描かなくても、小学生からは高校生の2人の立ち位置は変化があったことを、映画の過程でその都度、描いておく必要があったと思われました。
また、小学生時代での魅力ある周りを引っ張る主人公・関川あこ子の性格の一貫性として、関川あこ子を高校生の今もクラスの周りを巻き込んで引き連れるパワーある人物として描くなどの描写は必要あったとは思われました。
私的感じた3点目の欠点は、御共直己が主人公・関川あこ子を好きになった理由の弱さです。
御共直己が主人公・関川あこ子を好きになる要素としては、
A.主人公・関川あこ子の、御共直己へのめげない直線的な想い
B.御共直己の、主人公・関川あこ子が成田葵央(山中柔太朗さん)と仲良くしていることへの勘違いから来る嫉妬
C.御共直己の、両親が離婚している所から来る心の傷
があったとは思われます。
しかしながら、A~Cの理由はぶつ切りでそれぞれ描写され、映画のモンタージュ的にA~Cが絡み合って積み重なって描かれていたとは、1観客の私には思えませんでした。
そのため、例えば、シーパラダイスでの4人デートの場面で、気分が悪くなっていた親友・谷口充希から離れて、御共直己が主人公・関川あこ子の元に行って想いを告白する場面があるのですが、御共直己が(谷口充希を振り切って)関川あこ子を好きになったそこまでの納得感は、私には感じられませんでした。
(細かいですが、このシーパラダイスでの関川あこ子と御共直己との告白場面のカットは下からのアオリ気味のカメラアングルでした。
おそらく水族館の水面の光を2人の間に入れたいがためのアオリカットだったと思われますが、アオリアングルは対象人物の存在を大きく見せる効果もあり意味を持たせるので、引きの画は水面を入れるアオリアングルにするとしても、2人の告白が互いに誠実であると見せる為にも、2人の寄りのカットは2人の目線と同じアングルにした方が良かったのではとは思われました。
今作の横堀光範 監督は今作が映画デビュー作のようで撮影も監督がやっているようですが、モンタージュ積み重ねの弱さも含めて、次回作への課題は1観客としては僭越ながらあるとは思われました。)
今作の映画『あたしの!』は、主人公・関川あこ子と親友・谷口充希との関係性など、魅力的な題材であって、もっと面白くなったはずだったと、僭越ながら思われました。
特に主人公・関川あこ子を演じた渡邉美穂さんは、あこ子のキャラクターに沿った魅力ある演技をしていたので、本当に惜しいなとも思われました。
ただ、もちろん基本は面白さも感じながらも、今作はこんな風に理屈っぽく映画を観る人を対象にはしていないとも思われ、他レビューでも高評価が多いのであれば、私のような感想はお呼びでないなとも一方では思われました。