「SSU唯一のヒットシリーズ、そのあまりにも雑な完結編」ヴェノム ザ・ラストダンス 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
SSU唯一のヒットシリーズ、そのあまりにも雑な完結編
IMAXシアターの先行上映にて。
『スパイダーマン』に登場する敵キャラクター(ヴィラン)を扱ったエクステンデッド・ユニバース作品群、通称ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(SSU)に於けるヒットコンテンツ『ヴェノム』シリーズの第3作にして完結編。
私は、シリーズ中『マダム・ウェブ』以外の作品を全て劇場鑑賞済み。原作コミックには馴染みのない、あくまで映画シリーズのファンなので、本作で登場した様々な要素がファンサービスとして優れていたのだとしても、ピンとは来ないという立場。
結論から言ってしまうと、SSU中でも『モービウス』を抜いて最低レベルの作品だったように思う。元々、本シリーズは「軽い気持ちで観る分には丁度いい」くらいのポップコーンムービーとして楽しんでいたが、本作ではそれすら困難なレベルのノイズだらけの駄作となってしまったように思う。
その最たる所以は、脚本の雑さで間違いないだろう。
元々、シリーズ第1作の公開当時から、SNS等で「ハリウッド版『ど根性ガエル』」と言われるくらい、「本当にコイツ、スパイダーマンの敵なの?」と言いたくなる程、本シリーズのヴェノムは茶目っ気や愛嬌たっぷりに描かれてきたが、本作ラストでは遂に自己犠牲の精神によって相棒エディを救うにまで至る。それ自体は別に構わないのだが、その感動的なクライマックスを演出する為のお膳立てがあまりにも雑で先が読めてしまう(しかも、こちらの予想すら下回るレベルで)為、退屈さから鑑賞中幾度となく睡魔に襲われ、あくびが出てしまった。
冒頭から、これまでの世界観をガン無視した、長髪に剣を携え、暗い森の奥で樹木の根のようなもので縛り付けられた、まるでゲーム作品のラスボスのようなファンタジー色全開の“ヌル”の登場に面喰らう。冗談抜きで、入るスクリーンを間違えたかと思ってしまった程。
そんな突如生えてきたラスボスによって語られる、ヴェノム達“シンビオート”の誕生秘話から創造主たる自身との決別、自らの封印を解く鍵“コーデックス”をヴェノムが誕生させた事から、下僕である獰猛な異性生物“ゼノファージ”を放ち、鍵を手に入れようとする。
対するヴェノム達地球に逃げ延びてきたシンビオートは、ヌルの復活を阻止すべく奔走する。しかし、“復活を阻止する”事に終始する為、一応のシリーズ完結編にも拘らず、ラスボスとの対決という爽快感は無く、明らかに更なる続編を意識した伏線(エンドロール中に挟まれる怒りに燃えるヌル、作中で示されていたヴェノムのカケラとそれが収められていたであろう割れたアンプル、その側に居る「2億8000万年生きている」と言われていた黒いゴキブリ)が張られており、そうした点も先述したヴェノムの自己犠牲という感動的なシークエンスを邪魔している。
また、ヴェノム達シンビオートを追うゼノファージが、ジャンボジェットのエンジンに巻き込まれて細切れにされようが、軍による兵器やシンビオート達の攻撃で負傷しようが、すぐさま再生するというチート級の自己再生能力を有している為、クライマックスでのシンビオート軍がヴェノムを守る為に戦うという盛り上がりをイマイチ盛り上がり切れない中途半端なものにしてしまっている。せっかく多種多様なシンビオート達が次々と登場し、共に戦ってくれるという激アツ展開なのに、敵が強すぎて頼りなく、たった一体のゼノファージにすら大苦戦するという不甲斐なさ。というか、「ヌル、お前さ。最初からもっとゼノファージ送れば良くね?」と思ってしまったのだが(実際、クライマックスでは複数体を同時に送り付けてきたし)。
極め付けは、そんな複数のゼノファージを覚悟を決めたヴェノムが1人で捕獲し、これまた分かりやすい伏線だった強力な溶解液で溶かすというクライマックスシーン。「いや、お前1人でその数抑えられるんかーい!」とツッコまずにはいられなかった。せっかくなのだから、クライマックスは複数のゼノファージとシンビオート群の『エンドゲーム』的な大乱戦を期待したのだが…。
そもそも、ヌルの封印を解く鍵であるコーデックスの説明からして腑に落ちない。ヴェノムが宿主であるエディを生き返らせた事で誕生し、葬るには「どちらかが死ぬ」しかない。…何それ?(笑)
明らかなラストの犠牲の為のアイテムにしかなっておらず、このアイテムについての説明をヴェノムがし始めた瞬間、彼の運命は決まっていたのだ。
何それといえば、エリア51でシンビオートの研究をしていた博士もそうだ。若い頃に兄と共に雷に打たれ、手を繋いでいた兄だけが亡くなってしまい、自身は左腕に傷を負いながらも生き延びた。クライマックスでは、研究仲間のクリスマスを救う為、自らもシンビオートと融合して見せた。あるいは、原作ファンならば彼女が何者なのか分かるのかもしれないが、私としては登場から退場まで終始「???」状態だった。
そもそも、本作は当初予定されていたシナリオから大幅な変更がなされたのではないか?前作ラストでマルチバース展開を取り入れ、他のユニバースに飛ばされた時には、「次回作はいよいよスパイダーマンと共演か?」と期待もしたものだが、本作では冒頭でアッサリと元のユニバースに戻ってきてしまう。唯一マルチバースを扱ったネタが「紫色で石集めが好きな宇宙人なんていねぇ」という、MCUでのサノスとインフィニティ・ストーンについてのみというのも呆気なく、その後は一切他のユニバースに行った事に触れない。もしかすると、マルチバース展開を取り入れて以降混迷を極め、(一部作品を除き)興行的に苦戦を強いられているMCUの現状を見ての急な路線変更だったのかもしれない。
そう邪推しなければ納得が行かないくらい、本作の脚本は雑で行き当たりばったりなのだ。
一応の完結を謳いつつ、更なる続編をやる気満々な様子には、もう正直何の期待も抱いてはいない。SSUはヴェノムだけが唯一の成功ラインを保っていただけに、残念でならない。
先行上映としてIMAXシアターで鑑賞したが、また、本作は“Filmed for IMAX”を謳ってはいるが、別に通常スクリーンでも問題無かったように思う。正直、先行上映に飛び付いてラージフォーマット分の鑑賞料金を無駄にした事を後悔している。
12月の『クレイヴン・ザ・ハンター』は大丈夫だろうか?不安である。