「長短あり、思い入れがないと厳しい面も」ボルテスV レガシー モルチールさんの映画レビュー(感想・評価)
長短あり、思い入れがないと厳しい面も
【あらすじ】
ある日、地球はエイリアン種族『ボアザン帝国』により宇宙から侵略される。
ボアザン帝国の繰り出すUFOに世界中の主要都市や油田は壊滅的な打撃を受け、地球防衛軍の艦隊も帝国のロボット兵器ビーストファイターになすすべもなく壊滅してしまう。
しかし、地球には、ボアザンへの備えとして5機の飛行メカ『ボルトマシン』があった。
ボルトマシンはUFOを次々と撃墜するが、ビーストファイターには歯が立たない。
5機のマシンは合体し、パワーアップした真の姿である巨大ロボット『ボルテスV』になり、ビーストファイターに戦いを挑むのだった。
地球の運命は5人の男女のボルテスチームと、彼らを支える秘密基地ビッグファルコンに委ねられたーー。
【作品の背景その1】
元々この作品は1977年に東映動画で長浜忠夫監督が超電磁シリーズの第二作目として制作していた作品でした。それをフィリピンでリメイクし、またTVシリーズ放映されていた物の一部を劇場向けに再編集した物らしいです。
フィリピンで放送されていたTVシリーズは、今年の11月12日(火)から東京MXで放映予定と公式webサイトで見ました。本作はおそらく本放送前のプロモーションの一環なのでしょう。
このため、劇場版単独では回収されていない伏線や、結末はTVを見ないと分からない作りになっているようです。
【感想】
とにかくボアザン帝国襲来からボルテスチーム出撃までの展開が早い!
普通の映画ならば主人公がどういう背景で、悩みを持っていたのかが描かれて本格的にロボットで戦うのはクライマックスになるはずですが、早々に地球防衛軍は在来兵器での攻撃を断念し、真実を隠したまま訓練を受けていたボルテスチームを緊急招集。
けれど発進シーン、そして日本語主題歌に乗せて合体する姿はとてもかっこ良かったです。
ボルテスVに合体してからもコクピットで各パイロットがズシンズシンと歩くリズムに乗せて上下する演出など、ロボットの巨大さを感じさせる演出も良かったです。
また、ボルテスの右腕が変形するバズーカや、腰からベルト状のチェーンを繰り出し、お腹から出てきたコマで攻撃するなど、意外な武装や、正統派のパンチ、そして天空剣から繰り出されるその名の通り敵をVの字斬りにする必殺技など、男の子や少年の心を持った大人に十分楽しめるギミックが詰め込まれています。
また、ヒロインのジェイミーが生足ミニスカを翻しながらシートに座る姿はとてもまぶしかったです。招集シーン前の忍者装束で松林に隠された機関銃に手裏剣や2丁拳銃で実戦さながらの戦闘訓練をしている姿も、5人の中では一番強そうでした。
ボアザン帝国の女性幹部のザンドラも美人でセクシーで眼福でした。
ただ、滑り出しは良かった物の中盤になってアームストロング家の母のマリアンヌがバリアーの張られた基地の中に入れないはずが、いつの間にか内部に避難し、特攻するのはちょっとと思いました。パイロットスーツを着ていなかったから、脱出装置を使っても上空で酸欠になるか凍えそうですが・・・。死ぬ展開は良いのです。ただ、生きる努力を放棄している辺りはお涙頂戴で少し冷めました。
この辺りの下りは原作を脚色したのか、『母を訪ねて三千里』や『みなしごハッチ』など昔の日本のアニメは保護者である母親がいない状態で冒険が始まる物だし、エヴァンゲリオン初号機の暴走のように、母親というのは子供を守るためには命を賭けるのだ、という親子の絆を描きたかったのかもしれません。
前述の通りTVシリーズの掴みとしては良い物の、後に述べる理由から私の中ではこの作品の評価はそこまで高くありません。
【作品の背景その2】
wikipediaで調べましたが、フィリピンのボルテスVは早くも日本で放送された翌年1978年に英語の吹き替え版が放送されていた物の、独裁者を倒すストーリーが時のマルコス大統領政権を脅かすと判断され、わずか4ヶ月に満たない放送で打ち切られてしまったそうです。
その後、1986年のエドゥサ革命により、マルコス政権は打倒され、革命後の残りの80年代から2010年代にかけて何度か再放送されたそうです。
ここまで書くと私個人としては、なぜ古いアニメの矛盾点を今日的な視点でアップデートしなかったのかが分かります。
ボルテスVは彼らが子供時代に取り上げられた娯楽であり、自由と解放をもたらした革命の象徴なのでしょう。それを変えるなんてとんでもない! と思うでしょう。
SLAM DUNKのTV版をyoutubeで無料公開して映画版ではキャストをごっそり変えたり、リトル・マーメイドをリメイクするのにオリジナルと異なる黒人となった事でファンの反発を買った事は記憶に新しいと思います。そうした感情をフィリピンのボルテスVの制作陣が抱く事は想像に難くなく、可能な限り原作を変えずに作られたのだ、と捉えています。・・・と、ここまでがポジティブな感想です。
以下はちょっとネガティブな内容が続きますので、この作品を心から好きな人はどうぞ読まないでブラウザかマウスの戻るボタンをクリックするか、最近のスマホだったら左フリックしていただけますと幸いです。
【しかし、厳しい(蛇足な考察なので読み飛ばし推奨)】
今日的な目で見ると、ボアザン帝国が地球を侵攻する理由がまず不明なのです。
例えば、トランスフォーマーのようにエネルギー資源を狙っているなら、油田地帯を無傷で占領しようとするでしょう。
あるいはジョン・スコルジーの『老人と宇宙』(映画じゃなくてすいません)のサロング族やララエィ族のように人肉を魅力的な食料として感じているのでしょうか? それとも奴隷として強制労働させたかったのか?
少なくともマリアンヌを捕虜にしようとしなかったので人類その物を収奪対象として見なしてはいなかったでしょう。
単に領土が欲しかったのならば占領している描写もないのです。
味方となる地球防衛軍の描写もいささか首を捻る物でした。
地球防衛軍の空母機動部隊と戦車隊を全滅させて1日で地球を征服しかけているエイリアンの侵略に核兵器の使用を検討しないのでしょうか? ガンダムSEEDのニュートロンジャマーみたいな核兵器無効化装置とか小難しい事や、ATフィールドで使徒にはN2兵器が効かないとかエヴァンゲリオン的設定でなくても良いのです。
敵が市街地にいるから核兵器を使えないとか、地球防衛軍を組織できたのに核兵器は各国の分裂を招くとか理念的な物でも良いから示して欲しかったと思います。
※最近私が読んだ記事ではアメリカが北朝鮮のミサイルに反撃するのに太平洋を横断できる射程距離のミサイルがないため、北極海越しにロシア上空を通過するようにミサイルを撃つそうです。仮に米朝の核戦争が勃発した時に、ロシアは米国のミサイルを自国向けのミサイルと誤解する可能性が高く、必然的にロシアはアメリカを攻撃し、核の応酬の果て放射能汚染で人類は絶滅するそうです。ワンチャンスとしては太平洋をパトロールしているであろうアメリカ戦略原潜が北朝鮮に反撃すればロシア上空を通過しませんが、方角とアメリカを攻撃された状況を正確に認識していなければロシアや中国は自国向けの米国の先制攻撃と誤解してやはり核戦争で人類は絶滅する可能性が高いと考えられます。
このように、一発の核ミサイルでも真意を誤解する事で人類は滅びる可能性があるので無闇に発射する事は出来ないのです。現状北朝鮮もミサイル実験は日本のEEZ外や、核保有をしていない日本の上空だけを飛ばすようにして米国を刺激しないように慎重に行動しているのです。…迷惑極まりないのですが…ひと度核を撃てば人類同士の同士討ちで全滅する(蒼き流星SPTレイズナーの火星の米ソはそうでした。こっちは完全にグラドス軍の策略でしたが)とか、恒星間航行できるボアザンが核を撃ち返して来たらマズい、だから撃たない、というのも一つの理念としてあってもよかったのでは。
通常兵器の描写はどうかというと、空母機動部隊でボアザン帝国と戦うのに戦闘機や水上戦闘艦も主力兵器のミサイルを撃っているようにも見えず、現代の海戦において対空防御や対地射撃などの補助的な役割の大砲でビーストファイターに抵抗するのは軍事ファンには疑問でした。
対空戦車がないのならば、地上の兵士がUFOを攻撃するのに必要なのは米国がアフガニスタンの対ソ戦を支援した携行式の対空ミサイルでしょう。少なくとも対歩兵用の突撃銃ではないはずだ、と思います。
【今後の展望】
ボルテスVは当時の視聴者やフィリピンのファンにとっても特別な作品だとは分かりました。が、私個人としては、現実の革命を経験したフィリピン人がエドゥサ革命の経験を下敷きに、第4の超電磁シリーズの続編を新規で作ってくれた方が良いのでは、と思いました。
とはいえ、レガシーのTVシリーズを全て見ないと判断も出来ないので、これからしばらくボルテスVに付き合ってみたいと思います。
★3と感じていますが、往年のファン向けであり、大人になった男性は子供と一緒に楽しむべき作品であった、という自戒と、レガシーのTVシリーズへの期待を込めて、★4として評価します。
【24/11/9追記~超電磁ロボボルテスVを2話まで見て追記】
東京MXでのボルテスVの再放送で2話まで見たので、追記します。
TV版ボルテスは少なくとも私が思っていた疑問点は全て解消していました。
地球防衛軍は2024年現在でも実用化されていない宇宙空間でも戦えるロケット戦闘機で応戦し、プリンス・ハイネル(レガシーではプリンス・ザルドス)率いるスカールーク(ドクロ船)に多弾頭ミサイル(MIRVの核ミサイルの発展型か)すらも放っています。
少なくとも、核兵器と明言しなくても連想させたり、核兵器を使わなくてもここまでやったんなら仕方がないよね、と映像的に納得できる表現がされていました。
また、バイザンガ戦でのボルトマシンとビッグファルコンの実弾訓練など、それって同士討ちで戦力低下を招くんじゃ…みたいなところもビッグファルコンの上に標的を用意してくれて、その後の戦闘と違う事が分かり、徐々に盛り上がっていく戦いを見せてくれました。
そしてなにより剛光代博士(レガシーのマリアンヌ)!
ボルテスチームの訓練が全員命がけの上、夫が死んだ物として地球を守るために命がけの訓練を科すなど、マリアンヌよりも心を鬼にしている描写が際立ちました。
また、いつの間にかバリアーの中に入っていた問題も、光代が戦死するきっかけになった戦闘機が地下からビッグファルコンの前の滑走路に現れた事から、ビッグファルコンにはバリアーを張った時に出入りできる隠された地下トンネルがあったんだろうな、と推察できるようになっていました。
また、光代は特攻ではなくて、重傷の中で戦闘機を操縦してバイザンガに戦いを挑んだ中で操作を誤って事故のような形で戦死しているので、狂気の中にも納得がありました。
あと、アニメ版だとハイネル城(地底城)を1話で作り上げており、本格的に地球を支配して君臨するつもりだった事が見て取れ、ボアザンの目的に悩む必要もなくなりました。
城郭とは要塞だけでなく行政施設や威信財でもありますので、明言しなくても絵だけで分かる優れた描写だと思いました。
長く書きましたが、レガシーのスタッフはたぶん本気でボルテスを語り伝えようとして、マリアンヌを愛情深い母親として描き直すことで、現代の子供たちに届くようにしたかったのでしょう。
レガシーがボルテス愛1億倍と言われる由縁ですね…。
モルチールさん、こちらこそ共感、フォロー、コメントまでいただき有難うございます!
これからフィリピンのTVシリーズを日本でも鑑賞出来る環境になる、ということなので、ぜひ観てみたいと思います!
モルチールさん、共感&コメントをありがとうございます。本作はやはり愛がないと存分には楽しめないかもと感じましたが、全くの新作として観ても面白いですね。
トミーさん
こちらこそ共感ありがとうございます。
70年代の日本のテレビアニメでは確かに核兵器は厳しかったですね…『反応弾』とかそれっぽい名前にされていたり、90年代のマクロス7でも核兵器に変わる反物質兵器の使用を阻止するために歌で宇宙を平和にするんだ! とか言う回もありました。
ただ、同じく70年代のヤマトが遊星爆弾の放射能汚染を描いたり、ゴジラが核実験から生まれていたので、時代を超えるアニメや特撮には核兵器があったので、核を撃たない決断をするシーンを期待しちゃいました…(核兵器は必要ない、我々にはボルテスVがある、と断言できれば問答無用に格好良いと思います。私はロボットアニメを遡って観ても80年代のリアルロボットまでなので、理屈っぽくて反省ですが…)。
マ・クベの水爆ミサイル起爆装置を切断するガンダムも懐かしかったです…。
が、ヤマトやガンダムはティーン向けで未就学児童も観るであろうボルテスに要求するのはお門違いだったな、と反省しています。
(なので、レビューの後半分は少し編集しました)
共感ありがとうございます。
とてもじゃないですが70年代の日本のTVアニメに核兵器は仲々・・。特撮だとロボットに収納されてるとか、ファーストガンダムでちょっと言及されたりしてましたが。