「ボルテス愛に溢れた企画力」ボルテスV レガシー ありのさんの映画レビュー(感想・評価)
ボルテス愛に溢れた企画力
日本のロボットアニメがフィリピンで実写化されたことに驚きである。聞けばこの「ボルテスV」はフィリピンでは国民的な人気を誇っているそうで、今でも多くの人々に愛されているということである。しかし、そうだとしても日本ではなく遠く離れた海外で実写化されたというのは相当稀有なケースではないだろうか。
かつて「機動戦士ガンダム」や「新世紀エヴァンゲリオン」といった人気作品がハリウッドで実写映画化されるという話があった。しかし、相当ハードルが高いのだろう。いずれも実現までには至っていない。そう考えると、この「ボルテスV レガシー」が如何に凄い企画なのかがよく分かる。
自分はオリジナル版のアニメをリアルタイムで観てないので、このたび東映特撮のyoutubeチャンネルで一挙配信されていたものを観た。いわゆる勧善懲悪なヒーローアニメという枠組みには収まりきらない重厚なドラマが大変面白かった。
例えば、敵味方入り乱れての因縁関係や圧政に苦しむ民衆の蜂起等、戦闘シーン以外にも多くの魅力が詰まっている。フィリピンでは民主主義の象徴とも言われているそうだが、こうした人間ドラマ的な面白さが人々の共感を呼んだのではないだろうか。
その実写版となる本作は、フィリピンでは全90話でテレビ放映されたそうである。今回はその序盤をまとめた編集版となっている。
やや駆け足気味な内容ながら、キャラクターのビジュアルや主題歌、BGMに至るまでオリジナルに沿った内容で、改めて本作が如何に大切にされているのかがよく分かった。物語も丁度良い所で区切られていると思う。
また、元がアニメということもあろう。人物のコスプレ感にも余り不自然さを感じなかった。メカデザインや武器などは現代風にアップデートされており、決して郷愁に浸るだけで終わっていない所もよく考えられている。
一方、オリジナル版が持つ人間ドラマ的な魅力は残念ながら本作は希薄である。主に戦闘シーンをフィーチャーした内容で、ボルテスチームの個々のドラマは全く描かれていない。おそらくテレビ版ではじっくりと掘り起こされていると思うが、今回は尺の問題でそのあたりは拾いきれていない。
したがって、見所となるのは戦闘シーンとなる。さすがにハリウッド大作と比べるとチープな部分もあるが、そこはそれ。ボルテスVと敵の戦闘ロボ、ビーストファイターの戦いなどは重量感があってオリジナル版とはまた違ったケレンミが感じられた。
ただし、クライマックスの戦いがやや冗漫なのは残念である。シチュエーションの反復がクドいのが原因だと思うが、ここをもっとスマートに構成できていれば、ボルテスチームの小さなドラマくらいは入りそうである。