劇場公開日 2024年11月29日

「インド・ムンバイのスラムから這い上がったバレエダンサーに大感動」コール・ミー・ダンサー クニオさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0インド・ムンバイのスラムから這い上がったバレエダンサーに大感動

2024年12月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

知的

萌える

 あのムンバイ、超大都市で貧富の差は甚大で、数多の映画でさんざんみてきた街から誕生したバレエ・ダンサーのドキュメンタリー。よくぞ私も選んだもので、何の情報もなく、ポスターみてピンと来て、鑑賞して大当たり! 主人公はボリウッド映画をみてダンスシーンのバク転に憧れて、以降没頭って言う凄まじい自己肯定感の強い人物を何年もかけてカメラで追った作品。

 冒頭から主人公マニーシュが自分の言葉でナレーションをこなし、非常に分かり易い作り、しかも時系列に追った撮影が基なので、編集で余分な手を入れてないのが特徴か。バク転の自己流会得からブレイクダンスの時代、そしてオーディションで出場者の1人からダンス教室を教えられ門を叩く。そんな教室は当然に富裕層の子弟ばかりが集う場所。トウシューズもなく、入室禁止を言い渡されるも心優しき友人が助けてくれる。

 本作の要は無論ご本人マニーシュですが、運命の出会いとも言える指導者イスラエル系アメリカ人の師イェフダ・マオールの有り様も大きくフューチャーされる。ユダヤ系のプロのバレエ・ダンサーで売れてる時代も有ったものの、教える側にまわり、アメリカからイスラエルに移り住み長く指導者として活躍、あのヌレイエフも指導したとか。しかし、歳と共に指導の間口も狭まり、たまたま見つけたインドでの教師募集に乗ったわけ。そしてもう一人、教室に後から入ってきたまだ若いアーミルが優等生マニーシュの座を揺るがす存在に。

 ポスターにもキャッチコピーとしての示してある「試練の数々」とは、親の思いとの齟齬そして怪我、もっと言えば「運」でしょう。少しでもいい職業にと願って、金をやりくりし大学にまで行かせたのに・・・。そしてスポーツ選手と全く同様に体が資本のダンサーにとって一瞬の怪我は一生を左右する。最後の「運」はまさに師匠に出会った幸運と、各地の留学に受かる幸運、天才肌のアーミルに抜かれてしまう不幸などなどがトピックとして紹介される。

 彼等のバレエの技量は当然に凄いのでしょう、素人ゆえによく分かりませんが。しかし鍛錬の日々の被写体としてこれ程の「イケメン」であれば十分に画面を支えられると素人でも判る。師匠であるイェフダも画面の中で言ってました「器量もいいし・・・」と。やっと両親にも仕送り出来る仕事が舞い込んだのも、なんと彼等そのもののバレエ人生を描く劇映画の主演のオファーとは。しかし一方のアーミルはイギリスに留学中で、そのような映画への出演は体への負担も考え禁止の指導が。よってマニーシュのみ出演にOKし、なんと自分自身を演技するはめに至る。

 その映画と言うのが Netflix「バレエ: 未来への扉」(原題 YEH BALLET)2020年で、今もNetFlixで鑑賞出来ますし、私も映画館から帰ったその夜に鑑賞しました。完璧な劇映画ですが、まさに2人の来し方を描いた感動映画です。例によって、本作はbased on true eventsと出るとおりで、冒頭シーンが凄まじい。海上を貫くハイウェーを上空から捉え、その先の遠景にカメラがパンすると近代的な超高層ビル群が望め。ムンバイの躍動を捉え、こんどはそのままカメラを引くと、家々とも呼べない建物が密集したスラム街が姿を現し、さらにそのまま海岸線まで引くと、真下になにやら人影が見え、次第にカメラが降下してゆくと、ブレイクダンスに興ずる若者達にフォーカスする。ここまでワンカットですよ、貧富の差を一瞬で示す映画的興奮のファーストショットです。

 そして主演・ジュリアン・サンズと出るではありませんか!「キリング・フィールド」1984年、「眺めのいい部屋」1986年などで、美形英国俳優として人気を博しホンダの車のCМにも出演した程の神がかったイケメンでした。と言う事は師匠・イェフダを演ずるわけね。で前述のファーストショットに続くシーンが、仕方なくインドくんだりまで流れ着いたヨレヨレのオジサンが迎えがこないと怒り狂ったシーンとなるわけで。馬面のようなご面相に禿げ上がった頭髪に何故か後ろだけは長い金髪と言う出で立ちで登場。これがジュリアン・サンズ? とショックを受けるレベル。しかしドキュメンタリーの師匠役をさらに癇癪持と深い愛情をもって表現し素晴らしい役者根性を見せつける。と同時に調べたら、なんとほんの昨年2023年に65歳で事故死?で亡くなっているのです、ご冥福を祈ります。

 この劇映画にはアーミル本人の出演叶わず、その役はプロの役者が担ったとかですがバレエを一から特訓したとか、逆にマニーシュはバレエはそのままで、演技を見事にこなしてまして、完璧にイケメン役者でしたね。冒頭のブレイクダンス少年が偶然テレビでオーデイション番組で素晴らしいアクロバット・ダンスを披露するマニーシュを目撃ってのが2人の出会い。この劇映画の制作のためにオーディションのステージセットを作り、そこで演技するマニーシュをドキュメンタリーの方でも撮影しており、理解ある両親を招待していたわけです。

 極めてややこしい状態ですが、劇映画の方はいよいよ米国へ招待されたものの、米国ビザが下りない困難も大きく描きます。翻って、彼等を知る映画として劇映画の邦画より分かり易いのは否めない。王道のサクセス・ストーリーですが、先に劇映画を鑑賞し、その裏側のドキュメンタリー映画も見るのが本筋でしょうね。私は逆をやってたわけです。

 貧富も人種も肌の色も宗教も乗り越えたダンスの芸術性を再認識出来る感動作でした、劇もドキュも両方とも。マニーシュは本作の日本公開のために来日してたようです。なにがあっても私はインド人の誇りを持ってますってのが泣かせます。

クニオ