「1day 1万ドルのカメラ」ウルフズ 蛇足軒妖瀬布さんの映画レビュー(感想・評価)
1day 1万ドルのカメラ
シナリオは非常によく練られており、
全体としてはしっかりとした構成が感じられるが、
ユーモアを交えたテンポに関しては、観客によって好みが分かれる部分もあるだろう。
特に、ブラッド・ピットとジョージ・クルーニーの息の合ったやり取りや間合いは、
観客によっては強く共感し、
楽しめる一方で、
少しノリきれないと感じる人もいるかもしれない。
印象的なのは、二人の共演が生み出すユニークな間合いと、
青年がライオンやキリンにじっと睨まれたまま長回しで見せるシーンのように、
さまざまなシーンでニヤリとさせるシークエンスが多い所だ。
しかし、特筆すべきはやはり映像面の完成度だ。
特に撮影と照明は映画全体において圧倒的な存在感を放っている。
カメラワークは単にアングルやカットの切り替えにとどまらず、
空間の使い方やシーンの流れを意識的に細かく作り上げている。
雪景色を全景で捉えたショットでは、
舞い落ちる雪が、
時間の経過と共に美しく積もっていく様子が見事に描かれている。
その細部まで丁寧に映し出されることとは裏腹に、
物語はバイオレンスシーンが容赦なく展開され、
そのコントラストのユーモアもノレるノレないの分かれ目だろう。
また、光源に街灯を使用したシーンでは、奥行きのある、
緩やかで自然なライティングが印象的だ。
この照明の使い方は、単なる技術的なものにとどまらず、
シーンごとの雰囲気を巧みに表現しており、
物語の進行に対するアンビバレントな感情的な影響をもたらしている。
また、二人の会話シーンでは、
カメラが寄りに切り替わるタイミングやサイズが絶妙で、
場面ごとにその空間をどう見せるかという工夫が感じられます。
Aカメオペレーターが、
ステディカムを兼任、
ファントムカメラ(30倍までスロー撮影可能)は、
別の技術者。
ちなみにファントムカメラは、
専門オペレーター、
機材レンタル、各種周辺機材、
特殊な照明機材、電源車等々で、
1day、1万ドル程度必要な最も高額な撮影費用の、
パターンの一種だ。
そして撮影監督(D.O.P.現場ではDPと呼ばれるケースが多い)は、
アカデミー作品賞エブエブで知られるラーキン・サイプル、
彼の高い技術は本作にも色濃く反映されている。
彼の繊細でありながら大胆なデザインは、
映画のビジュアルに深みと魅力を与えており、
今後は多くの映画監督が彼を求めることだろう。
撮影監督と監督の役割について言えば、
基本的なカット割りに関しては、
監督が決めるチーム、
DOPが決めるチーム、
作品、メンバーによってさまざまだが、
本作ではジョン・ワッツの演出と、
ラーキン・サイプルの絵作りが見事に融合し、
素晴らしい化学反応を生み出している。
ただし、主演のブラピとクルーニーが作り出す強烈な存在感が、
時に映画全体に浸透しすぎている面も見受けらる。
二人のパフォーマンスは本作において大きな魅力の一部ではあるが、
その個性が物語を時には過度に支配してしまっている印象もあり、
良い意味でも良くない意味でも、映画全体に一定の影響を与えているように感じる。
まとめると、
本作は非常に完成度が高く、映像、演出、パフォーマンス、
すべての要素が緻密に作り込まれている。
特に映像の美しさとその細部にわたる工夫は、
長く記憶に残る作品となっている。
先細る今後の映画業界で、
注目されるべき監督やスタッフが集結したことが感じられる、
非常に魅力的な作品ではある。