「誰の視点でみるか」十一人の賊軍 かばこさんの映画レビュー(感想・評価)
誰の視点でみるか
雨の中、日本最古のシネコンで観ました。
(大森ではないです)
妻を新発田の藩士に手籠めにされ、怒りのあまり藩士を殺害して罪人となった政、および決死隊仲間の罪人の視点で観たら、溝口は保身しか頭にない冷酷な裏切り者、藩士で決死隊のリーダー、鷲尾にとってもそうだろう。
でも、新発田のような小藩で、近隣を大国に囲まれて常に苦渋を強いられている環境では、頭を使って生き延びるしかない。保身も、自分がいなくなったら藩の舵取りをする人がいなくなるからではないか。現に新発田は戊辰戦争では戦場になること無く、溝口は領民たちから大変に感謝されていたのは、ラストで描かれている通り。
主役は政・罪人たちなので彼らの視点で見てしまうが、対家老(藩)としては描かれ方はフラットで、罪人側・家老側のどちらか一方に肩入れするようになっていない。
人物も、家老をいかにもな「悪役」ともわかりやすい「名家老」とも描いていないし、罪人達も美化も露悪的にもしていない。
決死隊の構成は、そもそも死罪だった罪人達と、リーダーは藩の方針と異なる同盟派支持で不穏な動きをする鷲尾、彼は官軍討伐なら喜んで出向くだろうし、戦死すれば藩にはむしろ一石二鳥。もうひとりの若侍はコマッタチャン。それに示しをつけるために家老自身の娘の許嫁をつける。
切羽詰まって城内で首をはねた人々は、コレラの罹患者
犠牲者は藩士3人と死罪の罪人、コレラ患者だけで、他の領民は傷つけられていない。
領民から見たら溝口は小藩の被害を最小限に抑えた、名家老なのだ。
頭の良い名家老だけど、小柄で童顔で声が高くてちょろちょろ動く、人として軽そうな感じなのがリアル。こういう一見与しやすそうな人のほうが警戒されずにいつの間にか重要な位置にいたりする。阿部サダヲはこういう役がぴったり。
ラストマイルの、巨大通販会社に翻弄される運送会社の支店長と若干通じるものがありました。
溝口自身も娘婿を失い、娘に自害され、妻からは鬼と白眼視される。
個人として大きな犠牲を払っている。
家老として冷酷なことをせざるを得なかったので、家老としてその報いを受けねばならない。最初から覚悟の上で甘んじて受けたよう。筋が通った人物に見えます。
そして政の視点で見ている我々観客は、溝口の因果応報だ、と溜飲を下げたりする。
大義のためには小義は犠牲にする、それはそうなのだろうが、犠牲にされたものはたまったものではない。蟷螂の斧かもしれないけれど、甘んじて受けることはないのだ。
なつとノロが生き延びて、家老の娘からもらった大金を手つかずで(そう見えました)政の妻に渡すラストで、下層民ではあっても人である心意気が示されたのと、理不尽にどん底に突き落とされた妻が救済されたことで、観客として気持ちに収まりがつきました。
家老の娘が婚約者を追ってのこのこ戦場に来た場面は余分と思っていたが、このためだったのか。
罪人達はひとりひとり個性はあるようだけど、それが活かしきれていたかどうかは疑問
ドンパチは派手で大規模、クライマックスが2度もあってスゴイと思ったが、首が飛ぶ腕が飛ぶ肉片が飛び散る、スプラッタ残虐シーンが凄まじくて見ていられず目をつぶったところが多々ありました。
上映時間が長い。若干ダレるところがあって時々集中力が切れた。
芸人さん大量投入、観客サービスとか話題作りかもですが、出しすぎでは。
芸人さんのきらきら衣装とか中折れ帽、映画の雰囲気にあってなくて浮いてて異様でした。
グレシャムの法則さん
コメント返し、ありがとうございます。
下級藩士、というのは、最後に家老に付き従ってきた人たちのことでしょうか。家老にはそれなりの警護がつくのが自然で、警護の武士たちは、家老の身に大事が起きないよう身を挺してお守りするのが信条なので、一対一にさせないような気がします。(命の重さにあからさまに軽重があります。。)
人の命ということで言えば、大量に虐殺と言っていい目にあった官軍側の兵士、主に足軽たちもいます。彼らにも人生があったのに。
積み重ねてきた人生をいとも無造作かつ大雑把に奪ってしまう、戦とはまさにそういうもののようです。監督はそれを描きたかったかも知れませんね。
そして、立場の違うそれぞれの視点からみた正義も敵も、それぞれ違うものだと思いました。
こんばんは。
コメントありがとうございます。
これはもう個々人の受け止め方の問題なので、議論とかではなく。
仲野太賀さんの大立ち回りを映画の華として演出するのは分かるのですが、じゃああれだけたくさんの下級藩士の命についてはどうなの?彼らにだって罪人たちと変わらぬ人生や家族の重みはあるわけで。だったら、始めから1対1の状況を作り、ピストル使えば?なんて考えてしまうのです。それまでの家老の公正さを瓦解させることになりました。
別作品でのコメントありがとうございます。本作のコンセプトやキャラクターが魅力的又は魅力的に魅せる要素が多かったので脚本には本当にがっかりさせられました。期待していただけに残念です。
コメントありがとうございます。
たしかに生き残った者がいたのは救われた気持ちになり、ホッとした部分もあります。でも、それ以上にあの自害がショックでした。
(ここには、ネタバレになるので書けませんが、察してください。)
3人の侍を除けば、新発田藩としては元々死を免れなかった人間しか死んでないんですよね。
同盟軍が去った後も切腹を続行しようとしたし、溝口も自己保身だけの人間ではなかったと思います。