「監督さんバイク乗ったこともなさそうで、何の魅力も描けない」ザ・バイクライダーズ クニオさんの映画レビュー(感想・評価)
監督さんバイク乗ったこともなさそうで、何の魅力も描けない
バイカー達の集団を描き、「イージー★ライダー」1969年に繋がるはずだった、でなければ何の意味もないただの馬鹿集団でしかないわけで、にも関わらず見事に本作は犯罪集団に陥る必然の表面をなぞっただけの愚作でした。なによりオースティン・バトラー扮する主人公ベニーの意思が全く描かれない、何をしたいのか? ただ流れに沿っているだけで、ベニーが能動的に動かない。これじぁ、映画も動きようがないじゃないですか。
当時こんな集団を取材した者の記録に基づくと冒頭に示されるが。まさかインタビュアーまで画面に入るなんてあり得ない。彼を主役に描くなら、集団への懐疑とか不安定をテーマに絞り込めば、まだしも価値が見いだせたのに。モノローグも含めてジョディ・コマ―扮するキャシーの立場を貫けば、異質な集団に魅了され振り回された後悔を描き得て、それなりに見応えある作品になったのに。要は誰の視点で描くのかが、まるでいい加減なのが致命的。
なによりバイクの爽快感が全く画面に伝わらない。意識が高がろうが低かろうが、バイカーの第一義は風切る爽快にあるはずで、それを画面に定着し得ない監督さんはお払い箱ですよ。その共通認識で集団が形成されるわけで、ベニーの感ずる風は全く観客と共有出来ていない。ひたすらオースティンをカッコよく見せようとそればかりに集中し、本質を見落としてしまった。彼をジェームス・ディーンに仕立てようなんて到底無理なハナシでしょ。
で、作品の要としての集団のボスに名優トム・ハーディが扮しているが、その渋さと男臭さは流石の迫力ですが、ジョニーとしての役柄に首尾一貫せず、中途半端は否めない。終盤の呆気ない死に方はそれこそトム・ハーディに失礼でしょ。悪い事に彼の中から真っ黒なヴェノムがいつ現れるかって意識が離れないのが困ったもので。さらに何故かマイケル・シャノンまでどうでもいい役で登場しますが、まるで主題に絡んでこない。本作で魅力なのは、集団に見切りをつけハーレーに乗って賃金も貰えるポリスに転じたコックローチがただ一人でした。若きチンピラに扮したトビー・ウォレスはお初ですが、今後が期待出来そうな面構えでした。
もろもろダメダメを書き連ねましたが、不自然な程に当時の楽曲が全然観客に響かないのが最大の欠点ですね。オールディーズからロックンロールへの過渡期が背景で、バイクの爆音に重ねガンガンに当時のヒット曲を網羅すれば、金髪を風になびかせるオースティンにシビレル事が出来たのにね。