「人生と哲学とレースと」ひゃくえむ。 キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)
人生と哲学とレースと
「チ。」は連載当初読んでいたが、この原作は未読。
予備知識もなく劇場へ赴いた。
あらあら。
青春熱血スポ根アニメかと思っていたら大間違い。
秀でた者が全て幸せではなく、もちろんそれが未来永劫続くわけもない。「持つ者」の悲哀そして地獄がある。
そんな大人向けのスポーツ映画。
まず、アニメとして「動き」がすごく良かった。
特にレース以外の微細な仕草がリアルに再現されていて、高校時代のシーンは最初「これ、セル画に見えるけど、CG?モーションキャプチャ?」と思って見ていたら、パンフレットにちょうどまさにそのシーンが、実写から線画を書き起こす「ロトスコープ」という技術だと書いてあって納得。
一方、レースシーンは線も動きもむしろ荒っぽいタッチで躍動感がすごい。
演出もまた、スポーツをテーマにした作品とは思えない、レースで負けた喪失感にフィーチャーし、勝者の高揚感はほとんど描かれない構成。
レース前の演出も、コースレーンや選手をカメラの後ろに置く位置取りで、ウォーミングアップする選手の足音だけを聴きながら移動、その後振り返ってスタートラインに戻る…なんて演出、どうやったら考えてつくんだろう。
そして、レース以外のシーンはこの原作者らしい、「人生」「哲学」の格言つるべ打ち。
短い上映時間だが、いろんなワクワクが凝縮された映画体験だった。
100m走という競技に取り憑かれた哲学者たちがそれぞれ語る競技論から人生観。陸上だけでなく、観客自身が今立ち向かっている「何か」にも繋がるヒントも多く刺さるものもあるが、正直言うと、小学生時代から、強者たち全員がそれぞれ披露していくのはさすがに食傷気味だった。(仁神先輩に関しては「こんな中2おらんやろ」って感じだし)
そしてラストシーン、一貫して楽しそうに走る選手のいないこの映画で、ほぼ唯一の表情が見えたのは観客としてもホッとできた。
私はここで「成仏」という言葉が浮かんだ。
あと、これは作品の中身とは関係ないが、あのエンドロール直前の、この作品で主人公にとって、物語にとって非常に重要なあの本当に作品ラストの数秒。
隣の小学生がジュースをこぼしてお母さんもバタバタ。
台無しじゃん。
しょうがないけどさ。
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