「スポ根ではなく生き方を描く物語」ひゃくえむ。 あんずちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
スポ根ではなく生き方を描く物語
原作未読で『ひゃくえむ』を観ました。
まず、ロトスコープの表現が印象的でした。特徴が活きている場面もあれば、アニメ的な描写が交互に映ることで、少しまとまりに違和感を覚える瞬間もありました。
予告で泣き崩れていた人物が誰なのか分からなかったのですが、本編でトガシだったと分かったときは驚きました。感情があふれ出るような演技はとても印象的でした。
登場人物たちが「なぜ走るのか」という問いを持っていて、それを言葉にする場面が多いのも特徴的でした。魚豊さんらしい作風だと思います。説明的に感じるところもありましたが、単なるスポ根ではなく、より哲学的なアプローチに感じられました。『ピンポン』のような熱血ものを想像していたのですが、むしろ「生き方を模索する物語」に近いかもしれません。
キャラクター面では、海棠さんが少し印象に残りにくかったのが惜しいと感じました。逆に、先輩や小宮、トガシは存在感が際立っていたと思います。ただ、陸上部に入らないまま、地元の近い高校に強い二人が揃う展開は、かなり偶然性が強いように感じました。とはいえ映画ならではのドラマ性として楽しむのが良いのかもしれません。
競技描写については、100mという短距離種目をどう描くかの難しさが伝わってきました。『ピンポン』のように試合中に心情を多く挟み込める競技とは違い、100mは一瞬で終わってしまう。その中で、海棠さんが走りながら心情を垣間見せるシーンがありましたが、他のキャラクターにももう少し踏み込んで描写があれば、さらに熱くなれたのではとも思いました。何度か鳴る大きな音の劇中音楽も場面を盛り上げる反面、それ以外にも心内描写があればよかったかなとも思います。十秒という時間にいらないかもしれませんが...
ラストはドラマや映画にありがちな結果をあえて見せないタイプのエンディングで、想像の余地が残る終わり方でした。皆が一番を目指している中でオリンピックや世界規模の話に広がっていくのかと思いましたが、そこまでのスケールではなかったですね。
最後に流れるヒゲダンの曲はとても良い曲で、余韻を一気に高めて締めてくれます。
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