劇場公開日 2025年9月19日

「圧倒的映像と上から目線のありがたいお言葉の数々」ひゃくえむ。 おきらくさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 圧倒的映像と上から目線のありがたいお言葉の数々

2025年9月20日
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まず、主人公のトガシと小宮の小学生時代から描かれるが、最近公開されたリアルな小学生を多数起用した映画『ふつうの子ども』を観た後だと、この2人が小学生に見えないのが少し気になった。

トガシは100m走で小学生の日本一という設定だが、練習シーンがほぼないのは不自然に感じた。
いくら足が速いからといって、普通の小学生生活を送るだけで日本一になれるのか疑問。

クラスの人気者と周りから孤立した存在という対照的な立ち位置で、同じ趣味を通して絆を深めていく展開は、去年公開の映画『ルックバック』を連想した。

個人的に物語に引き込まれたのは、2人が高校生になってから。

トガシ編は、廃部寸前の弱小陸上部に元天才選手が入部し、チームを立て直していくストーリー。
一方の小宮編は、底辺にいた人間が陸上との出会いで人生を変え、強豪チームの中でトップを目指すという物語。
どちらもスポーツものでは王道の展開で、自然と話にのめり込んだ。

高校入学時、トガシは陸上を辞めており、その理由は明かされない。
しかし、観客に理由が明かされないまま彼の心が癒やされ、陸上部に入部。
その後、ようやく辞めた理由がわかるという構成は少し不思議に感じた。

小宮の高校にOBとして登場する、100m走の日本記録保持者の場面が印象的。
全校生徒の前で演説する姿は、アスリートというよりミュージシャンに見えた。
深そうな発言をしているが、いまいちピンとこなかった。
この映画に出てくるトガシ以外の陸上選手も皆同じような雰囲気で、ハツラツとしたアスリートのイメージとはかけ離れていた。

物語は中盤から説教じみたセリフが増えてくる。
100m走はわずか10秒ほどで終わるため、スポーツ自体の駆け引きでドラマを生み出すのは難しい。
その分、対話シーンが多くなるのは理解できるが、それが説教くさく感じられるのは残念だった。

数年ぶりに再会した高校生のトガシと小宮が対決する大会の場面は、間違いなくこの映画最大の見せ場。
小雨の中、選手がレーンに登場してから走り出すまでを長回しのワンカットで描写。
高揚感を煽る音楽も相まって、レース前の緊張感が伝わってくる、凄まじい映像。
レース終了と同時に画面を掻き消すほどの大雨になる演出は、心理描写をうまく表現していて見事だった。

その後、物語は一気に10年後へ飛ぶ。
プロの陸上選手になったトガシが全盛期はとっくに過ぎていて、クビ寸前の状態から物語が始まる構成は面白いと思った。

公園で落ち込むトガシが、運動会の練習をする小学生たちに走り方を教える場面。
物語の序盤、小学生だったトガシが小宮に走り方を教える場面を思い出した。
彼には指導者の才能があり、この後指導者を目指す話になるのかと想像し、もしそうなったら素敵だなと思った。
しかし、競技への未練を捨てきれないトガシは目の前の小学生たちが逃げ出すほどの見苦しい姿になり、個人的には残念だった。
スポーツにドラッグ的にのめり込むことを肯定するような内容に違和感を覚えた。

最後、幼なじみの2人が人生をかけた勝負の最中に子供時代に戻る演出は、他の映画などでもよく見るため、正直古臭く感じてしまった。

おきらく
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