「原作はつまらんが映画は頑張った」宝島 まるさんの映画レビュー(感想・評価)
原作はつまらんが映画は頑張った
ほとんどの場合、原作が面白くて実写化でつまらなくなるもんだけど、これはつまらない原作をどうにかこうにか観れる映画にした稀有な作品と言いたい。
原作は、増長だったり無駄な表現やエピソードが多く、テンポも悪くてエンタメとしては全く面白くない。しかしながら、ノンフィクション風の沖縄現代史として知識を得るという点ではよい小説かもしれない。
これほどつまらない原作をどうにかすっきり見せるために脚本はとても頑張っている。演者もとてもいい演技をしている。映像もとても綺麗。原作がもっとスリリングなミステリーアクション活劇で爽快感があって笑えて泣けるような話なら大ヒットしたかもしれない。
追記・含むネタバレ
小説で、最初の基地に盗みに入るシーンで、レイが基地の航空機をぶんどって逃げようって言ってオンやグスクにたしなめられるシーンがある。このセリフをいれるのであれば、最後の暴動のシーン等でレイが本当に航空機をぶんどって逃げるシーンが必要。そうでなければ全くの無駄。そもそもオンちゃんの記述が足りなすぎる。「英雄と呼ばれている」っていう記述ではなく、読者がオンちゃんの言動を通じて、なるほどこいつは沖縄を代表する英雄だったんだなっていうエピソードが必要。医療品かっぱらって重病人を助けるとか、とんでもない機転をきかせて米軍を煙に巻くような、爽快かつ感情移入しやすい英雄譚。「英雄とよばれている」っていう説明だけではどんな英雄なのかさっぱりわからないからそもそもオンちゃんの周囲のキャラクターもぼやける。第1章で失敗して逃亡、失踪するところからはじめるのではなく、第0章でそういう英雄譚が必要だった。映画では学校をたてたいってヤマコに言うシーンとかばあさんに医療品あげたりっていうシーンをはさんで、涙ぐましく補っていたがまったくたりない。グスクが実は英語を喋れるっていうシーンをラストにもってきて、アービンとの友情シーンを描いた映画はよかった。小説だといつの間にか英語がしゃべれてる。前後するけどオバアやらヤマコが感じる霊的な話なんて、フィクションなんだからもっと効果的に使ってほしかった。読者はいつヤマコの超能力が発動するんだろうってずっとまってたのに。
映画化の検討段階でもわかるようなことなのに、25億かけて4億の興行収入っていう結果が出るまで突き進むところは皮肉にも当時の大日本帝国のようだ。
