「語られなかった「日本」の盲点をあぶり出す、“不快”で“誠実”な物語」宝島 こひくきさんの映画レビュー(感想・評価)
語られなかった「日本」の盲点をあぶり出す、“不快”で“誠実”な物語
いわゆる“戦後沖縄”をテーマにした作品としては、非常に政治的で、かつ誠実な映画と感じた。だが同時に、極めて視聴者を選ぶ「不快な映画」でもある。つまりこれは「良い映画」ではなく、「重要な映画」だということ。
本作が描くのは、米軍統治下の沖縄で「戦果アギヤー」と呼ばれる少年たちが、基地から物資を盗み出し、貧困に喘ぐ人々に分け与えていたという物語であるが、その核心は、単なる義賊譚ではない。むしろそこに潜むのは、国家と記憶、暴力と沈黙、そして“語る権利”の問題にある。
アメリカ軍の知性派として登場するアーヴィン、日米の橋渡し役である通訳の小松、そして情報統制と暴力装置の象徴であるダニー岸──この三者が象徴するのは、「外から来た支配」と「内側からの共犯」であり、戦後日本が“沖縄の痛み”にどう向き合ってこなかったかの集約でもある。
特筆すべきは、「予定のない戦果」という形で登場する赤ん坊=ウタの存在。彼は、性暴力と国家的隠蔽の果てに生まれ、英雄オンの命と引き換えに生き延びる。結果的に、ウタは「語られざる歴史そのもの」であり、語ることを覚えた時点で「排除される存在」になってしまう。この構造はあまりに示唆的だ。
本作には“正義”も“救い”もない。ヤマコ、グスク、レイはそれぞれ別の形でオンの喪失と向き合い、正義と暴力、国家と市民、自分と他者の間で迷い続ける。ウタはその象徴として現れ、そして最後には撃たれる。それでもなお彼の存在が「語り」を続ける意思として描かれるところに、この映画の倫理性がある。
ただし、万人向けではないことも確か。沖縄方言が字幕なしで飛び交うことへの不満も多く、情報量の多さ、メッセージの多層性、登場人物の変遷と心理の曖昧さは、一定の鑑賞スキルを要求する。“わかりやすさ”を排した本作の姿勢は、今の時代にはむしろ異質である。
それでもこの映画が強烈な印象を残すのは、“国家の都合で語られない歴史”を、明確なプロパガンダではなく、個人の選択と葛藤の積み重ねによって描いているからだと考える。『宝島』は、戦後日本が見て見ぬふりをしてきた“沈黙の声”に、ようやく焦点を当てた映画であり、その重みから我々は目を逸らすことができない。
こひくきさま
共感とコメント、ありがとうございました😙
レビューを書いた本人よりも、レビューの真意を理解していただいたコメントに、感激しています。
昨年12月からレビューを書き始めましたが、未だに自分のスタイルが見つからず、追記追記で試行錯誤しています。
この映画のレビューには、予想もしなかった、胸が熱くなるようなコメントをいただいています。
「レビューを読んで、公開初日に映画館に駆け込みました」
「これからも観たい映画の指標にさせてください、フォローさせていただきました」
「自分もNHKの沖縄特集番組で号泣する妻夫木聡さんを見て、この映画を観たいと思いました」
「沖縄人には『三丁目の夕日』の思い出はないので、(三丁目の夕日の東京は)幻想世界でした」
きっと私のレビューを超えて、「沖縄」と『宝島』という作品に、寄せていただいたコメントだと思っています🤭
Go1Goさん
ありがとうございます。
実はご指摘の部分について迷いました。作中ではオンがウタに対して「愛されて生まれた子供」と話しかけていたこともあり、ご指摘の通りかと思いました。
一方で、父親に捨てられ、米軍が基地内で妊婦が死亡したことを隠蔽しようとしたことを踏まえ、考えた結果"性暴力"と表現しました。
ここは受け止め方によって解釈の余地があるところだと思います。ご指摘ありがとうございました。
瑣末なことで申し訳ありません🙏
ウタは映画では「愛しあう2人の間に生まれた子」で🇺🇸と沖縄の🩸が流れている子という設定でした。結局は父親に捨てられた子ではありますが…
原作ではどうだったのか不明です。突然失礼いたしました。今後も
こひくき様のレビュー楽しみにしています!
みなさま
このたびは過分なご評価をいただき、心より御礼申し上げます。
今後も作品に真摯に向き合い、率直かつ誠実な感想を記してまいりたいと存じます。
引き続き、よろしくお願いいたします。
こひくきさま、初めまして🙂
『宝島』のレビューに惹き込まれ、『夏の砂の上』『木の上の軍隊』『南海ミッション』『ベートーヴェン捏造』『ブラック・ショーマン』『国宝』…とレビューを開く手が止まらなくなりました。
「こひくき文学」と呼べるような、レビューのタイトル、筆致と語彙力。書店や図書館で、手に取った1冊からお気に入りの作家と巡り合えたような、幸せな瞬間でした。
フォローさせていただきました。
これからのレビューも楽しみにしています😙
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