「本当の「宝」」宝島 M.Nさんの映画レビュー(感想・評価)
本当の「宝」
まず初めに、わたしはレビューはどこまでいっても個人の感想に過ぎないと思っている人間です。なので、これから書くことも他愛もない一個人の感想を個人的な理屈で書いているに過ぎないと思っています。
そういう人間が書いていることをご承知の上で、それでもお読みになっていただけるのなら幸いです。
まず結論から書くと、「やっぱり正解のない話だったな」というのが感想です。
これは別に悪い意味で書いているわけではありません。沖縄の米軍問題は今も解決していない問題であり、根が深く、本当の解決にはまだ時間が掛かってしまうのだろうな、と漠然と思っていました。なので、取り敢えず「宝島」という題名だけ見ても絶対に明るい終わりにはならないことは分かっていましたし、ティザーポスターを見ても、予告を見ても、それは一目瞭然でした。
そのような大きなテーマをどのように物語として成立させているのか、期待して観に行きましたが、期待どおりだったところもありつつ、やや期待外れと思えたところもあり、上記の点数になっています。
物語は、第二次大戦直後の沖縄を舞台に、妻夫木さん演じる主人公の刑事「グスク」が、かつて米軍基地で行方不明となった永山瑛多さん演じる「オンちゃん」を探していく中で、窪田正孝さん演じる「オンちゃん」の弟「レイ」が絡んでいる企みに巻き込まれていくというものだと思います。そこに幼馴染であり紅一点の広瀬すずさん演じる「ヤマコ」も同じく巻き込まれていくということで、この映画は3人の群像劇となっていると思いました。
舞台が第二次大戦後間もない米軍占領下の沖縄から始まり、日本へ返還される辺りまでの十数年間を描いているのですが、描かれているのは、「沖縄は米国のものでも日本のものでもない」という叫びであり、自分たちのアイデンティティを取り戻したいという沖縄県民の切実な想いだったように思います。特に「レイ」は反米感情だけでなく、自分たちを政治的に利用している日本政府への不信感も強く、明確でした。逆に、抗議デモや集会活動など言葉で米軍の撤退を訴える「ヤマコ」は、気持ちは同じでも方法は至極真っ当で大人です。主人公の「グスク」はその中間を行き来しており、とても分かりやすい人物造形になっていました。それでも、3人とも米軍や日本政府への怒りと憎しみは同じくらい募っており、それらは沖縄県民すべてのものであるようにも描かれていました。
良いところだと思ったのは、まず①「頑張って平等な目線で描いているところ」だと思っています。どうしても、反米感情や反政府的な描き方になってしまうところを、どうにか頑張って米軍駐留による特需で生き永らえている人(ピエール瀧さん演じるヤクザの元締めっぽい人とか歓楽街の女性など)を描いたり、米軍基地内部にも人道的な倫理観を持った情報部の人間がいることを描いたりするなど、あまり思想の押し付けになり過ぎないように配慮している印象を受けて好感が持てました。また、反米感情の強い「レイ」は序盤、高級車に乗っている訳ですが、それも嫌悪するヤクザの元締め(つまり米軍特需の恩恵に預かっている人)から貰ったお金で得たものであるところなどは、何とも皮肉だな、と思いました。
次に②「言葉による感情の説明がくど過ぎないところ」も良かったと思いました。特に終盤、米軍基地で「レイ」たちテロリストの企みを阻止しようと「グスク」が対峙した際に思想の言い合いになるのですが、そこも割と自然に作られており、わざとらしさがなくてすんなり登場人物たちの感情に共感できました。
あと、当然ではありますが③「物語が良いと思えたところ」もあります。この物語は単純に米軍に占領されて好き放題されている沖縄県民たちの苦境を訴えているだけでなく、戦後民主主義を掲げた日本がどのような外交をしてきたのかも想像できる教養にもなっていますし、何より、「グスク」を中心とした3人が「オンちゃん」という消えた英雄(つまり過去の希望)に囚われ続けているという悲劇も描いています。つまり、単なる「昔話」だけではなく、今にも通じる人間ドラマにもなっていると思いました。ラストの夜の浜辺で「オンちゃん」の白骨死体を見付けるまでの流れも、「オンちゃん」が命懸けで守った「宝」を、「レイ」の暴力による暴走が殺す、という皮肉な結末となっており、暴力の無常さや報われない登場人物たちの気持ちなど、現在の沖縄県の現状を映し出しているようで好感が持てました。また見方によってはその「宝」の存在自体が米軍のスキャンダルであり、それを「成果」としているところも、なんだか皮肉だな、と思った次第です。
もちろん、妻夫木さんを中心とした役者さんも全員超一流で一気にこちらの感情を引き寄せる演技を見せてくださいます(「ヤマコ」が「オンちゃん」の形見である首飾りの匂いを嗅ぐように顔に寄せる時の表情などは狂気じみていて好きです。)し、演出についても、遠くの「光」(夜の花火、回想の中に立つ「オンちゃん」に当たる光、暴動の中で上がる閃光など)を「手の届かない希望」として描いているように見える描写も、終わりのない苦しみを抱える沖縄県民の気持ちを代弁しているのかな、と思い、しつこくないけど分かりやすいな、と思った次第です。
ここからは受け付けられなかったところとなります。まず①「3時間以上の上映時間は長く思ってしまったところ」がありました。別に単に時間が長いということでなく「長いと思ってしまった」ということです。つまり、上記したとおり、途中で物語が間延びしていると思う時間があったということだと思います。逆に言えば、とても丁寧に映像化しているという証左でもあるはずなので、感覚は人それぞれですが、正直、「グスク」の家庭のシーンはなくても良かったように思いました。特に物語に絡んでいないし、彼の心の拠り所になっているとは思えない作劇だったためです。
あと、個人的にはガスマスクの件など「誰が何のためにお金を掛けて配布したの?」という疑問が解けないまま終わった感が否めません。きっと、どこかでちゃんと答え合わせがあったはずなのですが、良くも悪くも群像劇なので視点が行き来していて良く分からなくなりました。あそこに時間を割くのなら、「レイ」たちテロリストがVXガスを作成する件を入れて欲しかったな、と個人的には思う次第です。分かっていたとはいえ、3時間以上も映画を観ている者としては、どこかで「意外な真相」みたいなものを期待していたところもありまして、なんだか色々と絡み合った割には結局「オンちゃんはとっくに死んでいた」という当たり前の結末に落ち着く結果となり、それなら余計に細かな疑問も解消できる3時間にして欲しいとは思いました。
次に、これは①にも共通することかも知れませんが、②「製作費を25億円掛けている割に、ダイナミックなシーンが少ない印象」も持ちました。わたしは、個人的に映画を観る理由の一つとして「大きな画面で迫力ある映像を見て、リッチな音響設備で迫力ある音を聴く」というところがあるのですが、例えば飛行機が墜落して小学校が燃えるシーンなども主人公たちの表情を映しているだけで終わり、次のカットでは既に堕ちて大惨事になっているところが映し出されているので、いまいち臨場感や悲劇性が伝わりませんでした。同じく、最後の暴動シーンももっと遠くから多くの民衆が車に群がっているように見せてくれると、それだけ県民の怒りも伝わるように思い、片手落ち感を勝手に感じました。音響は良いと思えただけに、もっと映像でも魅せて欲しかった印象を受けました。演出意図もあるでしょうが、リッチな映像も、3時間を飽きさせないために必要なのではないかと思いました。
あと、良くもあるのだろうと思いつつ微妙だったのは「ちゃんと沖縄の方言を使っていたところ」でした。これも沖縄のアイデンティティを描いていると思われる本作では仕方ないことなのですが、いっそのこと字幕を付けても良かったように思いました。
結末については、「オンちゃん」が命懸けで守った「予定外の成果」=「米軍高官と日本人女性との間にできた非嫡出子」である少年「ウタ」を、「レイ」の暴走が切っ掛けで失ってしまうというかたちで終わりを迎えます。「オンちゃん」の優しさを感じるとともに、その「宝」であったはずの少年「ウタ」の呆気ない最後、その「ウタ」が命懸けで守ったのは皮肉にも誰よりも死に近い場所で生きてきた、「オンちゃん」の弟である「レイ」だったという事実もスパイスの利いた結末でした。そういえば「オンちゃん」は冒頭で「欲張るな。生きて帰ることが最大の成果だ。」と、ちゃんと結末について語っていましたね。
一方で、ラストシーンを見ると、結局、誰よりも「オンちゃん」(=「今はない希望」のような存在)に引っ張られているのは主人公の「グスク」であり、怒りにも似た表情で浜辺に背を向けるところなどは、個人的に、半ば憑りつかれて死に急いでいるようにすら思えました。そう思うと、彼が日本の政府関係者に監禁・拷問を受けている際に見た夢で「オンちゃん」から首飾りを受け取るところなど、「意志の継承」であるとともに「呪いの伝播」にも思えてしまい、人の想いの表裏一体性を感じさせると思いました。
という感じで、わたしのレビューを終わりにさせていただきます。
ご拝読いただき、誠にありがとうございました。
おはようございます。
素晴らしいレビュー、拝読しました。
成程と思う箇所も沢山ありました。
これからもよろしくお願いします。
返信は不要ですよ。ではでは。
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