「沖縄の苦難を描きつつ、3時間超の物語を十分に魅力的なものに仕上げた一作」宝島 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
沖縄の苦難を描きつつ、3時間超の物語を十分に魅力的なものに仕上げた一作
原作は未読のまま鑑賞しましたが、一つの映画作品として十分に楽しむ、という点で全く問題なかったどころか、3時間超の上映時間を通じて十二分に感情移入できる内容となっていました。
タイトルから連想できるような、血沸き肉躍る冒険活劇というよりも、激動の戦後沖縄に生きる人々を、時に泥臭さも厭わず描いた作品です。そのため爽快感を求めて本作を鑑賞すると、ちょっと期待外れに感じる可能性も。クライマックスの一つであるコザ暴動の描写すらも、長らく蓄積していた鬱屈がついに爆発したような、それでいて暴れたところで現実は何も変わらない、という悲痛さと虚無感が入り混じっています。
行方不明となった男を探す物語として、戦後沖縄史について特段の知識がなくても物語を追うことができるほどに配慮の行き届いた作劇となっています。とはいえやはり、米軍に経済依存せざるを得ない状況にありながらも抗議の声を上げ続けた沖縄の人々の鬱屈や苦しみを知るためにも、本作クライマックスの一つであるコザ暴動とそこにいたる周辺事情について、ちらっとでも確認しておくことをおすすめ。
クライマックスは観客にしか知りえない情報で登場人物が真相を理解する、という点がやや引っ掛かりとして残りましたが、全体で見ると些細な問題かと。
主人公グスクを演じた妻夫木聡ら俳優陣の沖縄方言を交えた台詞回しは、ところどころ聞き取りにくい箇所があるといえばあるのですが、それもまた、登場人物にできる限り沖縄の人々としての実在感を付与したい、という役者としての熱意と感じました。むしろ後半では耳も慣れて、彼らのイントネーションに親しみを感じるほど。
台詞は状況説明の要素も多々含んでおり、当時の状況について詳しくない観客にも現状把握ができるように配慮しているうえ、日本映画にありがちな、説明過多に陥るぎりぎりのところで踏みとどまった感があります。誰に台詞を言わせるのか、そしてその表現の仕方は、といったところで細かい調整が効いているところも、しゃべりすぎ、と感じさせなかった要因かも知れません。
言葉だけでなく、当時の沖縄の都市景観の変遷、さらには葬送儀礼など、娯楽作品という枠組みの中ではあっても、様々な沖縄の社会的・文化的要素を入れ込んでおり、その点でも稀有な作品であると感じました。
と言っても沖縄の生活経験が極めて浅い観客による感想なので、それぞれの描写については沖縄出身の方、沖縄の文化習俗研究の専門家による講評をぜひとも聞きたいところ。
確かに本作の結末は痛切です。しかしそこからは、グスクらが生きてきた時代から現在までの現実の経過を踏まえ、娯楽作品とはいえ安易な物語的着地で収める訳にはいかない、という、作り手側のテーマに対する真摯さを感じました!
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