「情報量が多い作品」宝島 山川夏子さんの映画レビュー(感想・評価)
情報量が多い作品
沖縄出身者としては、公開初日に観ないとダメでしょう!ということで鑑賞しました。
ウチナンチュにとってセンシティブな沖縄の米軍基地の問題を取り扱った『宝島』映像化が実現して、関係者各位の思いの深さを実感する作品でした。
感想としては、正直なところ「ウチナンチュの怒りを消費して終わらせないでほしい」という「危惧感」で胸が満たされてしまいました。
なんでだろうと自己分析してみたのですが、ウチナーンチュは戦果アギヤーだったり、米兵相手の売春婦だったり、暴動を起こしてみたりバイオレンスや犯罪に直接的に手を染めている描写があるんです。でも、ヤマトンチュと米兵は「悪」として直接的に描かれてないんです。セリフでチョロッと出てくる程度。悪いことしてるのは、基本的にウチナーンチュ。怒ってるのもウチナンチュ。
米兵が悪いことしたことに対して怒って暴動が起きてるんだから、「悪いことした」場面を描かないので、なんか(沖縄の人だけが怒って暴動を起こして三線弾いてる)みたいな変な感じがしました。
コザ暴動を私は実際にみてませんが、本当に三線弾いてる人いたのかな。反戦運動の政治集会で、三線を弾く人はいるけど、暴動の現場で三線を弾くか? 怒った時に指笛は出るかもしれないけど、本気で怒ってる時に三線を弾くとか、沖縄の人って、そんなメンタリティじゃないと思うよ? 「武器を捨てて三線を!」というスローガンがあるけど、暴力を止めなさい!という意味で「非暴力として楽器を持て」なのに、暴動してる側でイエーイ!みたいなノリで三線弾いてるの? なんで、ああなるの?
でもでも、役者陣は素晴らしい。
窪田正孝さん、千葉すずさん、妻夫木聡さんと、ストーリーが進むごとに、本当にウチナンチュにしか見えなくなりました。
沖縄の人は彫りが深くて、印象的な二重の目を持ち、俳優さんのような美男美女が多いです。日にやけたのか実力派の俳優さんたちのビジュアルが完璧にウチナンチュ化して、訛りもナチュラルになってゆき、深みのある演技で、特に後半戦は話にグイグイ引き込まれていきました。さすが!です。
没頭できました。
あと、原作が原作だけに、映画にしては情報量が多すぎるなあ、と感じました。
私は沖縄出身なので、話が進むごとにエピソードの一つ一つ(宮森小米軍機墜落事件、コザ暴動、与那国の闇貿易の話、沖縄ヤクザ抗争)が即座に理解出来ましたが、本作は沖縄問題を知らない人には情報量が多くて、処理できないというか、焦点がぼやけてしまうのではないでしょうか。沖縄問題をヤマトンチュが取り上げる場合、丁寧に扱われることが多いと思います。それで、律儀にてんこ盛りにされたんだろうなあという印象を持ちました。
が、これは映画なので、エピソードの数を減らして、すっきりさせて、じっくり話を
掘り下げた方が心に刺さっただろうし、一般のお客様には理解しやすいんじゃないかと思いました。
「ウチナンチュの思い」にガチガチに寄り添いすぎて、(エンターテイメントとしてのドラマに必要な余白)の部分が減らされてしまったようにお見受けしました。
この作品、エピソードを絞れば、あと30分短くできると思いました。
もしくは、5時間くらいにのばした方がいいと思います(長い方がいいなあ)。
原作者の真藤先生がこの作品の取材をしていた当時、お目にかかったことがありますが、新崎盛輝先生が全面協力で取材に同行されていらしゃいました。新崎先生の情熱を真藤先生が全身全霊で受け止めて、作品にされたようにお見受けしていました。「沖縄の不条理」を世界に伝えたいという思いのバトンは確実に引き継がれていると思います。新崎盛輝先生の本でも今日は読んでみようかと思います。
自分の浅い知識ながらも、ヤマコの教室の黒板横にかけられていた「方言札」とか、Aサインのチバナの店にある本土復帰反対ビラなどは読み取れて、その人物の立ち位置を支える細かなところもキチンと描きたい制作側の気持ちは伝わりました。

