劇場公開日 2025年9月19日

「ギリギリで原作のテンションは保たれた。」宝島 あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 ギリギリで原作のテンションは保たれた。

2025年9月19日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

原作は1952年から1972年までの沖縄を舞台とした700ページにわたる大長編である。この期間はいわゆる「アメリカ世(ゆ)」がすっぽり収まるアメリカ統治時代(途中で軍政から民政に代わるが)。
原作者の真藤順丈は1977年生まれでこの時代を直接的には経験していない。だから、原作を一読すれば分かるけど、疑似体験としての映画の影響が大きい。祖国復帰協議会の市民運動については東洋一の「沖縄列島」、アシバー(ごろつき)たちの抗争については傑作「沖縄やくざ戦争」、義賊は「ウンタマギルー」、特飲街は崔洋一「Aサインデイズ」、兄弟や兄妹関係については「オキナワの少年」や「夏の妹」。具体的に引用をしているというよりも血脈上にあると言って良い。だからこの小説は極めて映画的でどこを切り出しても脳内でシーン化することが容易にできる。
それだけにこの原作を映画化することはかえって難しいのではないかと思ったのである。どこも切れないし、どこかを変更しても収拾がつかなくなる。特にグスクとレイの立場は刻一刻と変わっていくので整合性を持たせるのは難しかったのではと思う。
であるのでこの脚本はほんとによくできている。ギリギリの線で主要登場人物たち(オン、グスク、レイ、ヤマコ、ウタ)のテンションを描き、彼らの関係性、距離感も原作のベースを維持できている。
撮影、編集についても、最初のコザの昼間の街なか、例によってグリーンバックのSFXによる表現(三丁目の夕日風の)にはガッカリさせられるがコザ暴動のシーンは夜だからなのか安っぽさが目立たず素晴らしく緊迫感がある。
実は、映画化されるのにあたって一番、嫌だったのは、これが青春群像として一般化されることだった。原作を読めばすぐ気づくが、この物語の語り部は登場人物の誰かではない。視点人物はグスク、レイ、ヤマコ3人が入れ替わるが、語り部はその外にいる別の何かである。最終盤になってそれはユンター(地霊)であることが明かされる。島で今、生きているもの、かって生きていたものの総体がこの地霊であり、それがグスクたちオキナワの子たちの命の動きを見守っているという構造なのである。映画でもそこはキープされ一人一人に立場が寄ることはない。だから、観客である我々としても、一人一人の愛だの欲望だの暴力だの感情などに必要以上に目を奪われることなく、オキナワの子らを襲う不条理な運命を見据えるべきなのである。
映画(原作)は悲劇的な終わりを遂げる。英雄は死に、英雄が最後まで守ろうとした新しい命も奪われる。オキナワは米軍と日本本土(ヤマト)との二重支配の軛の下にいる。両者は嘘とペテンでオキナワを翻弄し利益を収めてきた。そしてその構造は、この映画の時代が終わって50年が経つ現在まで変わっていない。それは驚くべきことである。
あとひとつ原作と映画の唯一のといってよい違いは、最後の嘉手納基地内でのアーヴィングとグスクの対決。映画では二人の信頼関係によってアーヴィングが銃を収めることとなるがそのような部分は原作にはなく、米軍とオキナワの実際の関係においてもあり得ない。欺瞞としか言いようがない原作の改悪でありここはかなりがっかりした。
とはいえ、この作品が、オキナワの思いをある程度は拾えていることは確かだと思う。考えてみれば大友啓史は「ちゅらさん」の演出家だった。オキナワとの付き合いは長いということだろう。

あんちゃん
sow_miyaさんのコメント
2025年9月23日

再コメントありがとうございました。おっしゃる通りで、今作は本土の者たちこそ観るべき映画と思っていますし、ウタが撃たれるまでは、今年度一二を争うと思っていましたので、決して冷笑されるべき作品ではないと思います。
Xなどで酷評されているというレビューを目にして覗いてみたら、今作を腐すことで、逆に自分の浅さや読解力のなさをアピールしているような(しかも無自覚に)、おぞましい投稿だらけで驚きました。

sow_miya
sow_miyaさんのコメント
2025年9月23日

というエピローグと読み取りました。それが、今作では、尺の関係もあったと思うのですが、種明かしをどうするかを重視したような展開に感じられて仕方なかったのです。
適切ではない言い方をしますが、ウタを瀕死のまま生かした設定が、海辺へと向かわせるためにしか思えず、あれではウタが救われないと思った次第です。
長文失礼しました。

sow_miya
sow_miyaさんのコメント
2025年9月23日

コメントありがとうございました。
言葉足らずのレビューで申し訳なかったです。原作では「予定にない戦果」は、アメリカと交渉する切り札までの重さはなかったと思います。オンちゃんが救い、悪石島から沖縄まで命がけで連れてきた「命(ウタ)」が、沖縄そのものという「宝」に出会った喜び。それに触れたグスクもヤマコも、ウタによって命を救われたレイも、その沖縄という「宝」をそれぞれの立場で守り抜こうとする(ほんとうに生きるときがきた)→

sow_miya
またぞうさんのコメント
2025年9月23日

コメントありがとうございます。最後半の展開は原作通りであること理解しました。しかし映像化にあたっては、例えば子供ウタが白骨をもう少し流されにくい場所に隠しておくなど、目で見て不自然なことは改変すべきだと思いますし、基地での会話劇も工夫の余地はあると思います。

またぞう
ノーキッキングさんのコメント
2025年9月20日

ヤマコが宮沢賢治を教えているのが、気になりました。東北方言は難しいのに。

ノーキッキング
ノーキッキングさんのコメント
2025年9月19日

共感ありがとうございました。
重く、厳しく、素晴らしい映画体験でした。自分は沖縄に対して軽々にものは言えないと悟りました。

ノーキッキング
ひなさんのコメント
2025年9月19日

あんちゃんさま
共感とコメント、ありがとうございます🙂
(アイコン画像、変わりましたか?)

レビュー、とても勉強になりました。
私がレビューを上げていなくても、共感したいレビューを何作か見かけたので、フォローさせていただきました。

大友啓史監督は『ちゅらさん』から25年、妻夫木聡さんは『涙そうそう』から20年、それぞれ沖縄との縁だそうです🫡

ひな
PR U-NEXTなら
映画チケットがいつでも1,500円!

詳細は遷移先をご確認ください。