「「○○○ー○○!」って叫びたくなるけど、とりあえず1週間は耐えることとしよう」あの人が消えた Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
「○○○ー○○!」って叫びたくなるけど、とりあえず1週間は耐えることとしよう
2024.9.20 イオンシネマ京都桂川
2024年の日本映画(104分、G)
いわくつきのアパートの担当配達員が奇妙な出来事に巻き込まれるミステリー映画
監督&脚本は水野格
物語の舞台は、東京都多摩市(ロケ地は横浜の民泊)
大学生の丸子(高橋文哉)は、コロナ禍を機にアルバイト先の居酒屋をクビになり、報道で取り扱われていた配達員へと転身した
配達所には小説家を目指している先輩の荒川(田中圭)がいて、自身が書いた「転生したらゾンビだったのだが」という小説を読めと押し付けてくる
仕方なく読むものの、内容はあまりにもくだらなく、ふと目に入った「スパイ転生」と言う小説を口直しに読むことになった
その小説はコミヤチヒロと言う作者のもので、丸子はその小説を気に入って、応援コメントなどを発信するようになっていた
それから4年後、丸子はぎこちないまま配達員を続け、「スパイ転生」も160話近くまで連載が伸びていた
ある日、丸子は担当地区にあるアパート「クレマチス多摩」の荷物の中に「コミヤチヒロ」と同姓同名のものを発見する
まさかと思いながら配達に向かうと、その部屋には小宮千尋(北香那)という女性が住んでいた
さすがにそれを聞きただすことはできなかったが、部屋の奥のパソコンに「スパイ転生」のページが見えたことから、丸子は間違いないと思い込むようになった
物語は、その女性が作者であることがわかるものの、同じアパートの住人の島崎(染谷将太)が彼女の部屋に押しかけているのを目撃するところから動き出す
他の住人に聞いても、島崎という男は気味の悪い人間で、丸子はストーカー被害に遭っているのではないかと疑うようになっていく
そして、仕事そっちのけで、千尋の無事を確認するために、あらぬ行動を繰り返していくのである
映画は、キャスト情報も含めてネタバレしない方が良い作品で、結末に関しては「本当に」知らない方が良いと思う
物語は、二転三転するもので、タイトルもダブルミーニングになっている
冒頭で襲われる住人(金澤美穂)が描かれ、そのアパートが事故物件になっていたのだが、一連の流れの中で、それもミステリー要素になっていた
また、千尋が書く小説の内容は映画内でははっきりと明言されないが、映画の後の特典映像のようなところでどんな話なのかわかるようになっていた
そこでは、劇中で立てられるフラグが回収され、ある意味では良い終わり方のように思える
さらに、その小説の主人公となる女性の名前は「とあるミステリー映画の名作のキャラの名前」を引用していて、これを叫ぶだけでネタバレとなってしまう
そのワードは知る人ぞ知るワードなのだが、ある意味「バルス!」ぐらい有名な言葉なので知っている人は多いと思う
その作品名を語るだけでネタバレになるので、気になった人は「小説のキャラクター名」を覚えておいて、それからググると色々と情報が出てくるだろう
パンフレットは袋とじになっていて、最終章にあたる部分の表記があり、そこには映画内小説のキャラクター名とエンドロールで登場する挿絵を用いた小説の解説が載っている
映画的にもメタ的な構造を言えば、本作全体がなろう小説のようにも思えてくる
このあたりは、なんとなく察していただけると思うのだが、それぐらい細かなディティールが粗めに作られていたように感じた
いわゆるツッコミどころ満載の作品になっていて、最後まで通してみるとおかしなところはたくさんあったりする
だが、全体がなろう系だと思えば、そういうものかなと納得できる部分があると言えるのではないだろうか
いずれにせよ、何とかネタバレ回避で頑張って書いてみたが、鑑賞後の人なら書かれている内容はわかると思う
個人的には先の読めない展開と、シュールすぎるコメディテイストがツボだった
前後半で映画の質が変わっていくのだが、やはりメタ構造を頭に入れてから全体を俯瞰する方が良いのではないだろうか
ネタバレレビューをうっかり踏んでしまった人のためにオブラートに包んでみたが、なかなか骨の折れる作業だった
「○○○ー○○!」って叫んで、心のわだかまりを取っ払いたくなる作品なのだが、誰かが叫ぶまでは我慢しておくとしよう