「痛快コン・ゲーム映画! 上田慎一郎はインディーズじゃなくても輝ける監督だった!」アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師 じゃいさんの映画レビュー(感想・評価)
痛快コン・ゲーム映画! 上田慎一郎はインディーズじゃなくても輝ける監督だった!
『2度目のはなればなれ』を観たついでに、下高井戸シネマで続けて『アングリースクワッド』を観る。
ケイパーものやコン・ゲームものは大好物だというのもあるが、年末に『侍タイムスリッパー』を観て、当然のことながら上田慎一郎を思い出し、彼がビッグ・バジェットを任されて撮った商業映画がどんな仕上がりになったか、純粋に興味が湧いたのだ。
結論からいうと、文句なしに素晴らしかった。
お正月から観られる気楽なケイパーもの/コン・ゲームものとしては、もうサイコーでした。
ちゃんと、お金と、キャストを与えられたら、
すげえきちんとしたエンタメ作れる人だったんだな!!
出来る人だとは思ってたけど、本当に出来る人でした!
とくにいいなと思ったところを箇条書きにて。
以下、完全にネタバレなので、未見の方はくれぐれもお気を付け下さい。
●まずは副題がいいよね。
『オーシャンと11人の仲間(オーシャンズ11)』とか、『テキサスの五人の仲間』といったコン・ゲーム映画の代表作を明確に意識したタイトルだとは思うのだが、実際と「数が微妙に合わない」ところがミソになっている。
要するに、タイトルで「今出てる詐欺師以外にも伏兵がいる」というのを、きちんと最初からオープンにしたうえで「その伏兵が誰か」を考えさせる作りになっているわけだ。
これは、とてもフェアなやり口だと思う。
しかも、その7人目が皆川猿時の刑事だと思わせておいて、そちらは「詐欺師」ではなくてじつは「公務員」のほうで(すなわち「同期の復讐」を目的に詐欺師に加わっている「公務員」が「2人」いる)、真の詐欺師であるところの「7人目」の神野三鈴が、最後にさっそうと登場するあたりが、とてもよい。
●神野三鈴のキャラクターは、物語における「仮想のリアリティ」を支えていて、このあたりの配置は本当によく出来ていると感心した。
まず、最初に岡田くんを迎えに来たバイカーが森川葵だったせいで、その後何度か出てくるバイカーが神野だと観客が気づけないという仕掛けが、気が利いている。
なぜ神野が、長期にわたる敵陣潜入という極端な重責を担っていたのかも、「家族だから」「母親だから」「むしろ彼女こそがこの復讐の主犯だから」と考えれば納得がいく。
そう、これは天才詐欺師の岡田くんがチームを結成して巨悪に挑む話ではなく、無実の罪で入獄した夫の復讐に燃える妻の一大計画を「天才詐欺師の息子が支援」する話なのだ。
また、この漫画チックな現金収奪計画成功のキモは、相手をいかにコントロールできるかに尽きるわけだが、相手の側近に(最も信頼できる)仲間が二重スパイとして潜入していれば、これほど安心な話もない。比較的自信をもって岡田くんが計画を推し進めていた最大の根拠、それが神野=ビッグ・ママの存在だったわけだ。
●森川葵が内野聖陽に引き合わされる掏摸のシーンで、「本当にスレる動きとタイミング」でちゃんと演出していたのは、リアリティがあってよかった。また、あの“ワイルドスピード”森川なら、「本当にできちゃう」感じがあったのも、キャスティングの妙だった気がする(笑)。
●内野聖陽演じる税務署員が、この途方もないコン・ゲームに加担し、のめり込んでいく過程もきわめて自然に描かれている。ごくふつうの、むしろ波風を立てることを良しとしない(僕と似たタイプの)公務員が、相手への怒りを増幅させ、いくつものセーフティを外し、戻ってこれないところまで関わって、やがて「コン・ゲーム自体の魅力」に取りつかれていく流れが、引っかかりなく構成されていて、さすがは上田慎一郎といった感じがした。上田と内野はさんざんキャラクターについて議論を重ねたらしく、そのへんのディスカッションがプラスに出ているのだろう。
●パンフを読んでいると、腕っこきの俳優たちが集められて、上田慎一郎監督のもとで大型のミッションに挑む様子が、まさに作品内での現金奪取計画の推移とダブって見えて仕方がない(上田監督が名の通った俳優たちと一緒に、相応の資金の用意された映画を撮るのはこれが初めてである)。実際この映画のなかで、内野の娘に密談現場を発見されたとき、彼らはこの詐欺計画の現場を「演劇」だ「ワークショップ」だと言い張るのだ。
さらにいうと、制作の経緯や、ベテラン俳優ががっつり噛んできたせいで監督が右往左往するところとか、そのおかげで「熱量の高い」みんな楽しめる「本物の」娯楽映画に仕上がっている点とか、全体に『侍タイムスリッパー』における安田監督と山口・冨家コンビの話ともダブっていて面白い。
●猛烈に悪い奴(ただし若干憎めないところがある)を、詐欺師集団が大がかりなコン・ゲームを仕掛けてやっつける痛快無比な物語という意味では、正統に『スティング』を引き継ぐ構造になっている。ただ細部に関しては、原作にあたる韓国ドラマを観ていないのでなんともいえないが、ビリヤードネタとか、最後の大ネタとか、個人的には『ルパン三世』の香りがすごくする感じがした。
●とくに、最後の大ネタやその後の展開は、良い感じで「漫画チック」で、しかもすっきりと腑に落ちる作りで、とてもうまくいっている。そこに巧い具合に「家族の再生物語」も絡めてあって、きわめて後味の良いエンターテインメントに仕上がっている印象。日本でつくられたケイパー映画、コン・ゲーム映画のなかでも、かなり上位に位置する完成度といえるのではないか。
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もちろん、わからない点や、気になるところもけっこうある。
半分くらいは、僕が何かを見逃しているせいかもしれないけど……。
●税務署員を愚弄するにしても、小澤征悦が内野聖陽に対して、わざわざワインをかけたりして挑発することに(観客のヘイトを集める以外の)なんの利得があるのか、理解に苦しむ部分がある。まして、税務署長のあっせんで会っている席上であんなことやったら「自分と税務署長はグルです」って公然と主張しているようなもので、やはり本人の一文の得にもならない。
●あれだけ「優秀」な詐欺師である岡田くんが、何をしくじって捕まっていたのか?(配信されている前日譚のドラマ版で描かれているのか?) その間、本作で展開される「計画」はどう進行していたのか?(お母さんはすでに先行して潜入していたはず) もしかして、服役まで含めて、すべて母子の計画どおりなのか?
●岡田くんの正体が簡単にばれて、内野聖陽が乗り込んでくるまでが、すべて岡田くんが彼を巻き込むために練った計画の一環だったことはよくわかったが、その場合、岡田くんの顔写真と現住所をさくっと教えてきた皆川猿時演じる刑事は、どういう役回りなのか。もとから岡田くんとグルだったと考えるのが自然な解釈のような? それともこの段階では偶然、出所したばかりだったので「簡単に詐欺犯の現住所がわかった」だけに過ぎなかったのか。
●なぜ共犯者として内野聖陽に的を絞ったのかが、今ひとつよくわからない。税務署での彼の立ち位置や秘めたる復讐心を、岡田くんに教える「スパイ」が税務署にいたということか? あるいはやはり皆川猿時の刑事が最初から岡田くんとグルで、彼なら大丈夫だと太鼓判を押して推挙でもしたのか?
一つ前の項目も含めて、最後のシーンで、刑事がどれくらい最初から関与していたかを見せる回想シーケンスでもあったら、ずいぶんと説得力が増した気がするんだが。
●いきなり新しく仲間に加えた素人(しかも法の番人に属する人種)を、詐欺師仲間たちに紹介してまわって、順番に会わせて犯罪者の面を次々と割っていくなんてこと、実際にあるのだろうか? ふつうは、よほど信頼を勝ち取った相手にしか、自分の犯罪仲間とその特技なんて絶対教えないと思うけど。やっぱりこの時点では内野聖陽を巻き込むことが「絶対のテーマ」になっていたということか。
●わざわざ「完全に素人」の内野聖陽に時間をかけて特訓させてまで、「ビリヤード勝負」にこだわる理由がよくわからない。相手を地面師詐欺に「釣る」のだけが目的なら、もっとローリスクな導入手段がいくらでもありそうな気がするが。
●クローズドの秘密クラブであるプール・バーに全員がスタッフとして潜入しているけど、実現可能性はかなり低いと思う(これがアニメとかなら『ルパン三世』でも変装してよくやってたけどw)。
●いくらリモコンを隠そうが飲み込もうが、本当に「自分はいかさまをされているのではないか」と相手が疑ったのなら、まずは「操作者」ではなく、「ボール」か「台」のほうに行くのが普通だと思うんだけど、そっちをケアする気配がないのはどうなんだろう?
●娘にGPSで尾行されちゃうのは、本当にありそうな話だからいいとして、地下室のドアが開きっぱなしとか、あのネタでホントに娘を騙せるものなのかとか、あのあとどういうフォローをすれば納得させられるのかとか。まあ……あのへんはギャグというか、漫画チックなネタとして半笑いで流すしかないような。実際、観客の「なんか演劇のワークショップみたいだよな」って印象と被ってるし。
カットが変わって、いきなり岡田くんが内野聖陽の家族とテーブル囲んで食事していたのが、本作で一番ゲラゲラ笑えたシーンなので、それでもう十分って気もする(笑)。あのあと、彼がいきなり自分の事情を「匂わせ」始めるのって、内野家の「家族」のナチュラルな感じと幸せな様子に当てられたからなんだろうなあ。結局、彼は自分の人生から奪われてしまった「父性」の代償を内野聖陽に求めていたってことなんだろう。
●地面師詐欺のパートは、Netflixのドラマも観ていないので基本スルーするけど、西園寺家の本物が絶対姿を現さない確固たる理由を、きちんと出しておいたほうが良かったのでは?
●最後の大ネタはうまく決まっていたように思うが、万札でいっぱいの段ボール箱を乗せた台車を使って、小澤征悦の集めた兵隊たちや悪い税務署員たちを足止めしようとするのは、あまりに危険な賭けすぎて(実際、箱がいくつか地面に落ちていて超危ない)、さすがに無理があるような気がする。
●なんとなく流して見ちゃったけど、最後のパトカーとか、警察官とか、全員仕込みってこと? それとも皆川猿時が噛んでいるんだっけ?(運転してたような? よく覚えていないや) あの人数をコン・ゲームのキャストとして噛ませるとなると、実質的にかかわっている人間が多くなりすぎて、計画としてはかなり危なっかしい気がするけど。話の構造として、「ここでしか出てこないうえにその説明がない」というのも、いささかアンフェアな気がする。
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最後に俳優さんについて。
●俺、人の顔見分けるのがホントに苦手なんだな。
それともいよいよボケてきたのかな?
実はお恥ずかしながら、
最後まで主役が内野聖陽だと気づかずに観てました(笑)。
なんなら、光石研によく似た俳優さんだなあとか思って観てた。
頭のなかに固定された髪型のイメージってこわいわ。
てか、昔から、眼鏡かけたらクラーク・ケントの正体がバレないのって「ありえねーだろ、そんなん、バカじゃないの」とか思ってたけど、ぜんぜん笑えなくなりました……。
●岡田将生くんは、最近では間宮祥太朗くんと並ぶ僕の推しだが、まさに当たり役でした。というか、こういう役やってる岡田くん、よく見るよね。
本物の美形男優たちが、相応にふさわしい役を得て、今後も邦画の世界でますます活躍できることを心から祈りたい。
●このあいだ「格付け」で八重奏の問題外して爆笑を呼んだ小澤征悦。
本当に楽しそうに悪役を生き生きと演じていて、良い俳優さんだなあ、と。
というか、この映画をほぼ「支えている」といってもいいくらい。
彼がちゃんと観客に忌み嫌われつつ、一定の「愛嬌」を振りまいてくれないと、この映画は成立しないから。
最近仕事で知り合ったミリオネアの社長と「表の顔」の雰囲気がマジでそっくりで、ホントよくこういう手合いを研究して役作りしてるなあと感心。
あとはやっぱり、この手の役をやらせると、吹越満は本っ当に巧いね(笑)。