「搾取される国民」アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師 U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
搾取される国民
ラストはモヤっとするものの面白かった。
どうやらリメイクらしく、韓国がオリジナルなのかな?Netflixで原作と同名の作品があった。
冒頭からガッツリ引き込まれる。
岡田氏と内野さんの好演に尽きると思われる。
税務署の一職員が職務を執行するでいいのかな?巨額の脱税者から追徴課税に成功する話。
その方法が詐欺であり、天才詐欺師の力を借りる。
この詐欺師の背景も味わい深く…さすがは韓国とニンマリしてしまう。
敵役の小澤氏も好演していて、その演出もハマるはリアクションする内野さんもさすがであった。
この手の話しは敵役の好感度が低ければ低い程、爽快感が増すので、序盤の小澤氏はとてもとても腹立たしい。失脚したであろう状態がもっと哀れだと良かったのだけど、その辺は好みなのであろう。
物語的には大逆転だし、気持ちいいどんでん返しも見せてくれる。
時計や母親の存在など、明確には説明しないのも粋だなぁとニヤニヤする。
味方同様、俺も騙されました。
序盤の内野さんと岡田氏のコントラストが見事で…特に岡田氏の聡明な雰囲気なんか絶品だ。おそらくは相乗効果みたいなものがあって、より引き立てられたのであろうけど、監督の手腕も素晴らしいと思われる。
話が話だけに強引だなぁと思う箇所もあるが、物語を追う内に忘れてしまえる。
展開が早いわけではないが、とても魅力的な展開だったのであろう。
詐欺師側の作戦がバレて、警察に捕まってしまい驚く。韓国脚本特有の屋台骨まで崩す破壊に見舞われて、後の展開を見失なう感じ。
終わってみれば予想通りなのだけれど、流れを急激に堰き止められた時のドギマギ感は毎度格別なのだ。
ちゃんと種明かしもしてくれるし、その種明かしがなかなかに趣き深い。
思わず「くぅぅぅぅ〜っ」と唸ってしまう。
モヤっとするのはラストの落としどころだ。
10億の追徴金が納付されたと告げる。
余罪云々の註釈はあったものの、熊沢の今後はどうなるのだろうか?
劇中ではハッピーエンドになっていたけど、身元も割れ、公務員である熊沢にはその後のリスクが大き過ぎるのではないかと思われる。
橘的には丸裸にされ、落ちぶれていくのだろうとは思うけど、警察署長とは昵懇だし、裏社会とのコネもあるだろう。金の切れ目が縁の切れ目って事なのだろうか?
税務署の署長も在職し続けるっぽく、この辺は国税庁に栄転する望月が目を光らせてるって事になるのかな?この成果をもって国税局に抜擢なんて事になっていればこんな感想は抱かなかったのだろうけど、なんかラストの大団円の詰めが甘いようにも思う。
とは言え、詐欺に加担した主人公なので、手放しのハッピーエンドにせず、エグ味を残した結末にしたのかなぁとも感じる。
役者陣は皆様、好演で…
吹越さんのヌルッとした滑り感も、川栄さんの実直さも好感触だった。特に好きなのは神野さんで…ヘルメットを脱いだ時の屈託のなさと、咥えるタバコに曲者感が漂いまくる。なんだろ、ピンポイントを逃さない嗅覚があると言うか、キャスティングした意図を外さない安心感のようなものを感じる。
ああ「大いなる不在」にも出てらしたなあ。
あん時もホントにピンポイントながら、的を外さない存在感が際立ってたなぁ。
実は、物語が動き出すまでの世界観の説明に身の毛もよだつ思いで…税務署の現状が語られる。
弱き市民から税金をむしり取り、お目溢しをしようものなら出世に響く。
国税庁の職員は減税を提案したら左遷で、増税案を提案したら出世するとの話もある。
おいおい、ちょっと待てと小市民な俺なんかは思う。
今年度の使われなかった税金なのか予算なのか忘れたけど10兆を超える金が余ってるって報道もある。
オマケに強い者には擦り寄って、3000円の税金はふんだくるけど10億の脱税は見逃す。
「生きる為だ…」
劇中の熊沢が搾り出すようにそう話す。
この税金を取り囲む描写に身の毛もよだつ。
フィクションであって欲しいとは思うけど、政治家の脱税でも露呈したように、全くの中立な組織ではなく、組織の中に組み込まれるている部署である事は明白なのである。
どうにも絵空事と呑気に構えられるような空気感でもなく…この無さそうですありそうな世界線が物語に緊張感を付与し続けていたように思う。
憶測の域は越えないのだが、やってそうだし!
…そう思えてしまうのが1番厄介なのである。