「キレイにまとまった快作。上田印はやや薄めか」アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師 紫微垣将星さんの映画レビュー(感想・評価)
キレイにまとまった快作。上田印はやや薄めか
テンポもキャラ立ちも良くて、気持ちよくダマされる、コンゲームものとして秀逸な作品。
コロナ禍のせいで制作期間が引き延ばされた分、構想6年も掛けて脚本を練り、上田監督×内野さんが二人三脚で造り上げた成果は出ていました。
ただ、それは諸刃の剣で、正直シナリオの出来が良すぎて、ちょっと丸くなり過ぎと言いますか、上田印は薄まったような気がしてなりません。
内野さんの、しがない公務員の哀愁から熱血漢時代の狂気までを内包したくど過ぎない演技と迫力。
岡田さんの、無邪気さと軽薄さと実直さを兼ね備えた、気持ちの良い詐欺師っぷり。
脇役もキャラが立ってて、スターキャスト相手でも、上田監督の演者配置の辣腕が発揮されていたのは素晴らしかったです。
惜しいなと思うのは、3点ばかり。
①悪役がやや弱い
小澤さんには申し訳ないですが、コメディ色が強くて、憎むべき脱税王としては怖さが足りなかったです。
怒りを貯めるのがこの作品のテーマですが、ワインをかけるシーンも、ビリヤードで対峙するシーンも、内野さんに役者としての格で負けていて、巨悪に挑む感が出ていません。
片岡愛之助さんや、谷原章介さん、渡部篤郎さんあたりくらいが、怖さと爽やかさと、最後に負けた時の惨めさのバランスが取れる配役だったかと思いますね...
②詐欺師集団の能力と見せ場
キャラ立ちはしていましたが、策略に役立っていない能力も多く、メンバー紹介も流れ作業のようでした。
特に当り屋とトンカチ姐さんは、ただの賑やかしと力仕事のみ(笑)
お母さんを1年以上前から潜入させていたくらいですから、小澤さんをハメるクラブ×闇ビリヤードは既に乗っ取った状態にして、そこで内野さんを次々と罠に掛ける流れを1ショット風でしてしまえば、上田監督らしさを発揮しつつ、メンバー紹介とそのチームワークからクラブに仕込んだギミックまでをダイナミックに魅せられたはずです。
③日常への回帰
バイクの乗り手が実はという下りは鮮やかで気持ち良く、内野さんが小澤さんに追加徴税完了を告げるシーンもキレイな終わり方でした。
しかし、できれば、しがない公務員が詐欺師という別世界に入り込んで戦うのが今作の魅力ですから、またしがない公務員の日常へ戻る、いわゆる「行って帰ってくる」が欲しかったです。
税務署の仕事風景でも良いですし、警察仲間と吞むでも良いですし、家族団欒でも良いですし...
個人的には、娘を誤魔化すためについた嘘の個人演劇を実際に公開して、妻子を招くというような流れがあればと思いました。
内野さんが日常に戻るだけでなく、活き活きとした姿を見せられた上で、今度は詐欺師がシャバの世界へ降りてくるというエモさとともに、司法書士が実は仲間だったという下りや、本編のトリックの種明かしをここですると、見せ方があり来たりではなくなったように思いますね。
色々書きましたが、最近の邦画では中々ないケレンミと鮮やかさのあるエンターテイメント活劇として、非常に楽しませてもらいました。
上田監督の次回作に期待です!