劇場公開日 2024年11月22日

「内野聖陽無双」アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師 おきらくさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5内野聖陽無双

2024年11月27日
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「脱税王を騙して10億円を納税させろ」という話が、物価高に苦しむ庶民を尻目に、裏金作りに勤しむ政治家が大量発生している今の日本にピッタリな本作。

日本のコンゲーム映画で心から楽しめる日が来るなんて。

個人的にコンゲーム映画って期待外れなことが多く、観ていくうちに脚本のアラが気になり始め、途中から心の中でツッコミを入れる数が増え、映画を観終わる頃には疲弊していることが多い。
特に日本映画のコンゲームものはそんな記憶しかない。

だけど本作は違った。
序盤に変だなと思ったことにも実はちゃんと意味があり、観進めていくうちに納得させられることが多く、脚本に感心してしまった。
脚本のアラが無いといえば嘘になるが、話の面白さが凌駕していて、たいして気にならなかった。

脚本が上手いといえば、詐欺師たちの特殊能力「スリ」「当たり屋」「偽札偽造」「脱獄」が後半、全てちゃんときれいに生かされていて、伏線回収が気持ち良かった。

あと、いくら悪人を懲らしめるためとはいえ詐欺は犯罪で、もしバレたら愛する家族にも迷惑がかかるわけで、最初は頑なに詐欺行為を拒絶していた主人公が、次から次へと理不尽、理不尽、理不尽な目に遭い、流石にここまでされたら主人公が詐欺に手を貸しても致し方無し、と思わせる説得力が脚本にあった。

7人目の詐欺師が何者かをはっきり言わず、匂わせ程度で抑えているのも上品な作りに感じた。

個人的に本作最大の魅力は内野聖陽の演技で、凄いと思った場面が数多くあった。

まず最初は「うだつが上がらない、人柄だけが取り柄の公務員」として登場。
これが個人的には内野聖陽のいつものイメージとはかけ離れていたが違和感無く演じていて、オーラの無さが逆に凄いと思った。
例えるなら『サザエさん』に出てくるマスオさん。
序盤、仕事でトラブルを抱えて傷心中なのに、さらに詐欺に遭って大金を騙し取られ、世の中に絶望する姿が哀愁を漂わせまくっていて、超可哀想と思わされてしまった。

その後、詐欺師集団に参加、人を騙す練習をすることになるが、その場面の「演技が下手」演技が絶妙で、逆に演技が上手いと思った。

時間が経ってすっかり詐欺に慣れた頃には、練習の甲斐もあって、さっきまでとはまるで違う威勢の良い男を演じきっていたが、こっちの姿の方がむしろいつもの内野聖陽。
想定外の事態が起きて内心は慌てふためきつつも、それを周囲に悟られないように取り繕う姿が、良い塩梅のユーモアを生んでいたと思う。

また、シリアスな場面での演技も凄みがあり、画面に釘付けになってしまった。

個人的に、内野聖陽の演技によって映画史に残ってもおかしくないと思った名シーンが2つ。

1つ目は内野聖陽演じる税務署員の熊沢が、巨額脱税の疑いがある権力者・橘に、部下の非礼を詫びに行く場面。
熊沢が橘に向かって謝罪のために頭を下げていたら、突然、熊沢の頭にワインを注ぎ始める橘。
橘に「庶民が平和に生きたかったら怒りを持つな。わかったら笑顔で顔を上げてみろ」と言われ、顔を上げて前を向くワインまみれの熊沢の顔には、小刻みに震えながらの満面の笑み。
こんなに怒りに満ちた笑顔、初めて見たかもしれない。
この場面を観た時に、この映画ヤバいと思った。

2つ目の名シーンは、雨降る車中で熊沢が、正義感溢れる部下の望月と対話する場面。
望月に「なんで目の前の不正を何もせず見逃すんですか?」みたいなことを言われ、それに対する熊沢の短い一言が、まるで世の中の理不尽に耐えて生きている全ての人々の気持ちを代弁するような一言で、素晴らしい台詞すぎて心震えてしまった。
個人的には2022年公開の映画『マイスモールランド』に出てくる市井の人々のことを思い出した。

上田慎一郎監督作は本作と『カメラを止めるな!』しか観ていないので、上田慎一郎監督=神監督になってしまった(他の作品は評判が悪くて怖くて観れない)。

ハンマー姉さんがたいして役に立っていなかったり、岡田将生の演技が現実離れしすぎ(いつもこんな感じではあるが)なところなど、気になるところが多少あるので、評価が高すぎるような気もするが、でも気に入ってしまったのは事実なので、「持ってけドロボー」という気分。

おきらく