「「怒りで手を組む詐欺師&公務員 vs 権力者」のハラハラ痛快コンゲーム」アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師 ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
「怒りで手を組む詐欺師&公務員 vs 権力者」のハラハラ痛快コンゲーム
公開日直前に飛び込んだ岡田将生結婚というおめでたい報道に、私はライトファンでありながらしばらく目を閉じて横になってしまったのですが、起き上がって観てきました。
それはさておき。
内野聖陽はやっぱり素晴らしい俳優だ。
化けるなあ……少し前に「八犬伝」の北斎役を見たばかりなので、余計にそんな印象だ。公開前にメインビジュアルを初めて見た時は、光石研かな、と思ってしまった。「きのう何食べた?」「春画先生」ちょっと遡って「真田丸」など、毎回全く毛色の違う役柄に見事に馴染んでいる。
今回の熊沢役で見せた演技もまた見事だった。
序盤は卑屈な公務員、橘の非道ぶりや彼が友人の仇であることを知り、感情を抑えた中で怒りを溜めていく様子。作戦の一環でプールバーに潜入した場面での綱渡り感、部下の望月に橘や所長の悪事を見ぬふりする職員たちについて問われた時「生きるためだ」と返すその絞り出すような声と表情。ラストで橘と対峙した時、暴力(の空想)で放出した怒り。
最初は真面目と卑屈一辺倒に見えた熊沢が、犯罪グループと組んででも友人の復讐を果たそうとし、その過程でちょっと生き生きしてきたりする様子など、内野聖陽の表現する感情の機微はその起伏が楽しく、かつリアルだった。
展開自体はケレン味強めだが、熊沢の感情表現の説得力が作品の人間ドラマの部分を支えていたように思う。
小澤征悦の悪役もきちんと憎たらしくて、氷室と熊沢の怒りを引き立てていた。
詐欺師の氷室が橘を陥れようとする動機の根底には、父親の仇討ちがあった。最初から熊沢を巻き込もうとしていたのは、橘をリサーチする過程で熊沢の友人が死に追いやられたことまで知っていて、熊沢の怒りを目覚めさせて利用しようとしたのでは、なんて想像をしたくなる。
氷室が熊沢の家族と囲んだ食卓で、作り話を装って身の上話を口にするシーンが印象的。岡田将生の陰のある佇まいが、言葉の向こうにある本心を語る。2人を連帯させていたのは、胸の奥に燃える橘への怒りだった。まさに ” angry squad “ だ。
身も蓋もないことを言うと、氷室の母親が橘の組織に潜り込んでいたのであれば、熊沢を巻き込まず詐欺師チームだけで橘を地面師詐欺にかけ、手に入れた帳簿を匿名で税務署に渡すことで彼から金と社会的地位を奪うことも出来たように思えるが(所長も邪魔な存在だが、そこも小細工の方法はあるだろう)、それではメッセージ性が弱い。
エンターテインメントのためであることはもちろん、権力を持つ者の理不尽な横暴やそれに対する強い怒りを描くためには、熊沢にモラルの壁を越えさせる必要があった。
ネットフリックスのドラマ「地面師たち」にはまって森功氏のノンフィクションも読んでいたので、地面師詐欺のシーンはスキームの復習をするような気分だった。
偽地主との対面や現地実見のシーンでは、周辺住民に人相の確認をしないの?と思ったが、種明かしされてみれば酒井(神野三鈴)がスパイだったので納得。
橘が現実の積水ハウスより賢かったので笑ってしまった。まあそりゃそうだ。
現金強奪のために床に穴を開けてあれだけの量の偽札とすり替え、その金から脱税分の税金を徴収、というくだりはさすがにファンタジーの域だったが、ルパン三世鑑賞時のノリに切り替えて楽しんだ。
タイトルに「7人の詐欺師」とありつつ6人チームのまま進行していたので、隠し玉の7人目を推理し、その登場を期待しながら見ることになる。
ポスタービジュアルやパンフレット、途中までの展開では望月(川栄李奈)や熊沢の娘が仲間入りの気配を見せる瞬間があったがブラフ。ラストは素直にスカッとした気分になれた。
原作の韓国ドラマ「元カレは天才詐欺師 38師機動隊」が2016年、上田監督にとっては6年越しの企画で、コロナ前に書いた当初のプロットでは2020年オリンピック開催、それに伴うインバウンドの増加、国内カジノ、といった要素が盛り込まれていたそうだ。
個人的には時事ネタ抑え目の完成版の設定の方が好みかな。