「エイミーのフロイト的運命について」Back to Black エイミーのすべて あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
エイミーのフロイト的運命について
「フロイト的運命」は、エイミーがレビュー前(レビュー後の風体とは別人のようだ)に自室でギター一本で作る曲の歌詞にある。父母も離婚している、私は、男女関係、家族関係で繰り返し苦労するように精神的に刷り込まれているというようなことを言っているようだ。
彼女の人生はその予感通りとなった。夫のブレイク・フィルダー・シヴィルとは付かず離れずの関係が続いて命をすり減らし、そして強度のアルコール依存に命を奪われた。映画の中で彼女が「スパイスガールスとは違う」「私はフェミニストではない」と発言するところがある。90年代の終わりから00年代のはじめにかけてのガールパワーといわれるガールズバンドの活躍、これを独立独歩のフェミニズムの一環と捉える〜多分に表層的な〜コンセンサスがあった。エイミーも最初、ガールパワーの一人として売りだそうとしたことがこの映画から良くわかる。でもエイミーはそれには批判的だった。
エイミーはどちらかというと旧来の家族観や夫婦観寄りの人だったと思われる。それが現実の姿とのギャップを生み、彼女を苦しめ死に至らしめる遠因となった。
この映画はそのあたりをかなり平明にかみ砕いてみせている。もっとも人の心の闇はそんな簡単に整理できるのかという気もするが。
エイミーとブレイクが最初、ビリヤードのあるパブで出会うシーンは美しく、楽しい。世紀のクズ男として世界のエイミーファンから嫌われているブレイクだが、こんなに魅力的だったらエイミーも惚れるわなと思ってしまう。
あとエイミーの父親ミッチ(存命だそうです)を演じる「おみおくりの作法」のエディ・マーサン。この人が出てくると画面がいっぺんに英国調になるのが不思議ですね。映画はロンドンのシーンとN.Yのシーンが絡み合って出てきてちょっと分かりにくいがミッチがいるのが常にロンドンと思えばよい。アイコンみたいなものです。