「桜が咲くたびに思い出して欲しいのは、恋に輝く彼女の笑顔だったと思う」春の香り Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
桜が咲くたびに思い出して欲しいのは、恋に輝く彼女の笑顔だったと思う
2025.3.19 アップリンク京都
2025年の日本映画(102分、G)
原案は坂野貴宏&坂野和歌子著作の闘病記『春の香り』
膠芽腫と戦った高校生を描いたヒューマンドラマ
監督は丹野雅仁
脚本はカマチ
物語の舞台は、愛知県江南市
小学校の頃に膠芽腫と診断され、摘出手術を受けた藤森ハルカ(美咲姫)は、治療の効果もあって、通信高校に通うことができるまでに回復していた
ハルカの趣味は漫画を描くことで、特に少女漫画のような王子様展開を好んでいて、そのキャラクターにタクミという名前をつけていた
父・孝之(松田一輝)は高校で体育教師をし、母・美佐子(櫻井淳子)は付きっきりでハルカの面倒を見ている
ハルカには少し年上の姉・ユウカ(篠崎彩奈)がいて、高校の先輩の川上(平松賢人)と付き合いだしたとはしゃいでいた
物語は、ハルカが通信高校に通い、そこでクラスメイトの杉山巧(佐藤新)と出会うところから動き出す
自分の王子様と同じ名前を持つ巧はイケメンの高校生で、胸の病気に罹ったのではないかと勘違いするほどだった
母が父と自分の弁当を取り違えたことがきっかけで接点ができたのだが、その後も二人は学校の屋上で秘密の時間を過ごしていく
巧が電車通学をしていると知ると同じように通いたいと言い出し、彼がバイトをしていると知ると、バイトをしたいと言い出してしまう
回復の兆しと捉えていた家族たちだったが、ある日のバイト中にハルカは意識を失って倒れてしまった
主治医の小早川先生(光徳瞬)によると、膠芽腫の再発ということで、新しい手術にて「可能な限り腫瘍を摘出すること」になった
手術中に覚醒させて、会話をしながら脳の機能を確認するというもので、手術は何とか成功を収める
だが、副作用としての精神的な反応、手の痺れや視界不良などが起こり、ハルカは筆を左手に持ち替えて、漫画を描き続けようと試みた
映画は、実話ベースのフィクションということで、どの部分がフィクションなのかは原作にあたる闘病日記を読めばわかる
主題としては、思い出してもらうことの幸せというものを念頭に置いていて、ハルカの人生はこんなにも困難だけど素晴らしかったというところを記録として残しているような作品になっている
実際の闘病生活はもっと大変で鬼気迫るものだったと思うが、映画ではかなりオブラートに包んでいると思う
それでも、自分の意思とは関係なく起こる自傷を認知しているし、「自分が何をしても、生きたいと思っていることは忘れないでほしい」というハルカの言葉は真に迫るものがあった
いずれにせよ、完全虚構だと、ハルカの描いた自分の漫画(実際には描けない思う)を読んだ母親が巧の存在を知って探す、みたいな展開がありそうだが、現実的な路線に着地していたように思えた
ハルカがあんなに楽しそうだったのは何故かということが家族に伝わる内容になっていて、彼女は月1回の出席で恋をしていたことがわかる
彼女は普通のことをしたいと思っていて、その一部が叶っているとも言えるので、母親としてはそれがわかっただけでも良かったのかもしれない
病気はいつ何時自分の身に降りかかるのかはわからないが、何があっても生きたいと願い、生きていることに感謝をするのはとても大事なことだろう
公式HPには「もう一つの物語」と題されるショート動画(両親による語り)もあるので、そちらも重ねて視聴することをオススメしたい