「こういった「負の遺産」について触れている点に好感が持てる」流麻溝十五号 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
こういった「負の遺産」について触れている点に好感が持てる
今年277本目(合計1,369本目/今月(2024年8月度)2本目)。
※ (前期)今年237本目(合計1,329本目/今月(2024年6月度)37本目)。
(前の作品 「仕置人DJ」→この作品「流麻溝十五号」→次の作品「俺のヒーローアカデミア(明日予定)」)
台湾映画で、実際に台湾でおきた思想弾圧事件を着眼点とした実話ものです。この点は最初に示されます。
この点、思想弾圧というものでは日本ではたとえば治安維持法があったし、韓国にも似た事情はあったし、何なら各国どこでも歴史をたどればそうした法律やそれをもとにした事件はだいたいあるものですが、台湾についてこの事件を明確に取り上げている点についてはよかった点でしょう。
ただ映画として見たとき、どうしても娯楽性を映画に求める立場からでは推せる映画とはやはり言い難いので、観る観ないが極端に分かれるのかなといったところです。こうした問題提起型の映画は概してそうなりやすいですが、それはもうしょうがないといったところです。
翻って日本を見ると、治安維持法のもとでの思想弾圧は中学教科書の歴史レベルですし、戦後の混乱期でもいわゆるハンセン病隔離問題や、先の最高裁判例のいわゆる強制不妊など、いろいろベクトルの向きは違ってもやはり「とりあげるべき点」は多いものの、日本では「いろいろな事情で」とりあげられることは少なく(一方、ミニシアターではよくとりあげられる)、ここは国民性ないし考え方の違いなのかなといったところです。
日本とは韓国と同じかそれに準じるほどに近い関係にありまた友好国でもある台湾ですが、その台湾で実際におきた思想弾圧について触れていた点についてはとても良かったところです。こうした「考えさせるタイプの映画」が増えるとよいなと思います。
なお、この当時の台湾の事情や歴史事情についてある程度通じていないと(前日に公式サイトを見るだけでも違う)理解がかなりかわるので注意です。
採点に関しては特段気になる点までなかったので(パンフ売り切れが残念)フルスコアです。
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(参考/減点なし/「共産主義に抗う(あらがう。「戦う」と同じ)」はどう表記するか)
・ この映画は台湾映画ですが、日本でも日本を紹介する映画等が文化庁等公的行政機関から無料公開されているのと同じように、台湾にもそれに相当する行政機関からこの映画は推薦枠扱いで最初の30分ほどがみられます。台湾語(中国語?)と英語の2言語併記です。
映画内で最初のほうに出てくる「共産主義に抗う」という部分は、台湾公式サイトの表記では 「戦う」の意味で fight against が使われています。一方、辞書にはfight with が載っていることがしばしばあります。実はこれだけで「○○と戦う」(○○は交戦対象)という意味がありますが、前置詞withには「付帯」の意味があり、「○○と一緒に(他の勢力と)戦う」の意味にもとらえかねないので、「○○と戦う」(この部分は交戦対象)という場合、その「意味のまぎれ」を消すため、あえて fight against を用いる場合があります(意味を一意にするためのものであり、厳密には前置詞誤用にあたるが、趣旨として理解できるものであり、この点は理解できる範囲)。台湾公式サイトで fight against になっているのはこの事情です(「共産党と一緒になって誰かと戦う」では意味が破綻してしまう)。
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