「【”様々な、円相”ひょんなことから、カリスマアーティストに祭り上げられた美大出の男が、別人格の独り歩きに困惑しつつも、飄々と生きる姿が印象的な作品。様々な解なき問いもナカナカな作品である。】」まる NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”様々な、円相”ひょんなことから、カリスマアーティストに祭り上げられた美大出の男が、別人格の独り歩きに困惑しつつも、飄々と生きる姿が印象的な作品。様々な解なき問いもナカナカな作品である。】
ー ”円相”・・宇宙全体、無、真理、悟りの象徴。禅において、書で描かれる墨絵で一筆で描かれる。-
■美大卒だが、現代美術家アキモト(吉田鋼太郎)のアシスタントをする沢田(堂本剛)は、ある日仕事帰りに右腕を骨折し、仕事を失う。
沢田は、部屋の中を歩く蟻に導かれるように、”諸行無常”と呟き乍ら、無心で書いた”まる”の絵を知り合いの古道具屋(片桐はいり)に持ち込み、小銭を稼ぐ。
その絵がいつの間にか、“円相”の絵として高い価値を持ち始め、”まる”の脇に書いた“さわだ”は、沢田とは別人格のように一人歩きをするのである。
◆感想
・私は、荻上直子監督の全作品を鑑賞しているほど、オリジナリティ溢れるその作品群が好きである。
故に、少し思った事をそのまま記載する。
・今作では”アシスタントが仕上げた絵は、それを指示だけして自ら筆を動かさないアーティストの作品と呼べるのか。”と言う冒頭、現代美術家アキモトにTVリポーターが問いかけるシーンが印象的であり、その後も解なき問いが次々に発せられる。
それを受け、同僚のアシスタントの女性(吉岡里帆)に”アキモト先生に搾取されているんですよ!”と詰め寄られるも、沢田は”法隆寺を作ったのは誰?”と聞き、”聖徳太子だけど、実際には昔の大工さん達が作ったんだよね。”と答えるシーンも印象的である。
・つまりはこの作品は、”芸術家の独創性って何?”という事から、”人間の価値って何?”というナカナカ答えが出しにくい問題をコミカルテイストで、サラリと描いているのである。
・又、沢田も最初は無心で書いた”まる”が評価されるも、その後画商(小林聡美)が求める“まる”を書いても、否定される。
そして、何を書いたら良いのか分からなくなっていくのである。
この辺りを堂本剛が飄々と演じている。
・面白かったのは、沢田が働き始めたコンビニのミャンマーから来た日本語のタドタドシイ同僚(森崎ウィン)の姿かな。
彼は、日本人から馬鹿にされても常に明るく振る舞っている。けれども、終盤、沢田に言うのである。”マエムキジャナカッタラ、ヤッテラレナイデショ。”と。そして、彼は仏教の言葉を呟くのである。
<今作は、沢田の隣人の漫画家志望の矢鱈と寿司を食べたがる男(綾野剛)、骨董屋の謎のおばちゃん(片桐はいり)なども含めサブキャラが良いのだが、沢田自身が飄々としており、表情が余りない為、エンターテインメント作品としてはインパクトが足りなかった作品と思ってしまったな。怒っちゃ嫌よ!
けれども、作中で問いかけて来る様々な解無き問い【”芸術家の独創性って何?””人間の価値って何?”】は、よーく考えるとナカナカに奥深いモノだと思った作品である。>