「設定を逆手に、現代的なテーマをさらりと描く」ヒューマニスト・ヴァンパイア・シーキング・コンセンティング・スーサイダル・パーソン sow_miyaさんの映画レビュー(感想・評価)
設定を逆手に、現代的なテーマをさらりと描く
吸血鬼一族のなかでただ一人、人を殺せないという致命的な問題を抱えていたサシャが、いじめを受け、自殺願望を抱えていたポールと出会って…という話。
吸血鬼の設定は、世界的に共通理解されているので、余計な説明もなく、気持ちいいくらい話はどんどん進む。
誕生日に目の前で両親や親戚が吸血行為をするのを見たことがPTSDの発症につながったのか。はたまた、先天的な発達障害が理由なのか。脳の機能が他の人と違い、人を殺せないサシャに対して、両親も親戚も心配するのだが、その対処法は、おどしや強制や同調圧力だったりして、サシャの心に響いていかない感じや、周囲がサシャへの対応の仕方でもめる感じなんか、「あれ? これって、人間世界でのグループ内のマイノリティへの関わりかたそのまんまじゃん」と思った。
一方のポールも、バイト先や学校でのからかいやいじめにさらされていて、生きる気力を失っている感じがリアルで、周囲の大人の対応のピンぼけ具合も絶妙だった。
この作品のよさの一つは、そんな2人の出会いの場面の描き方がとてもスマートなこと。
ポールが、サシャを吸血鬼だと認識した上で関わり始めることや、ポールとの出会いによって生じた、サシャの第二次性徴とも言えるような身体の変化を、余計な説明なしに、なおかつ少しホラーチックに描くことで逆に2人の心のドキドキ感を表す演出など、とてもオシャレだった。
また、住む世界の違う2人の恋の進展は当然もどかしく、部屋でレコードをかける場面や、互いの危機を助け合う場面など、それぞれの場面で、観ているこちらをキュンとさせる仕掛けがバランスよく施されている点もよい。
そして、そんな2人の結末は、「やっぱりそれしかないよね。タイトルでもそう言ってるし」というものだったが、これは、日本でも報道特集などで取り上げられるようになってきた尊厳死の問題にもつながる現代的なテーマを、この設定を逆手にとって、あくまでもさらりと映画的なスタイリッシュさを前面に押し出して、うまく描いて来たなぁと感心した。
所々コメディ色もあり、ほぼ90分という長さも見やすくてよい。
公開劇場は少ないようだが、配信されたら観て損はない一作だと思う。
コメントありがとうございました。
他にも、吸血鬼にはアレルギーは無いのか(B型飲んだら痒くなるとか)、みたいなどうでもいい事を色々考えてしまいました。
それはともかく、本作の青春ドラマ仕立てはなかなか新鮮でした。