劇場公開日 2024年8月3日

「監督の熱い思いは伝わるが、生々しい証言は逆効果かも?」マミー たけさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5監督の熱い思いは伝わるが、生々しい証言は逆効果かも?

2024年8月9日
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鑑賞方法:映画館

知的

別の再審請求事件を扱った「正義の行方」を思い起こさせる映画だ。もしかしたらテレビで放送されていたものを監督が見て、影響を受けているのかもしれない。ドローンを使った映像、ジャーナリストがスツールに座ってインタビューに答えるところなど、類似点がいくつかあった。
ただ、「正義の行方」が当時捜査に当たった警察官総出演といった趣でインタビューに成功しているのに対し、「マミー」ではそれは成功していない。きちんとインタビューに答えているのは検察側の鑑定を担った大学教授くらい。
一方で林真須美死刑囚の夫と息子に密着し、ふたりから生々しい言葉を引き出している。それがこの映画の功績と言えるところであろう。特に夫・健治氏がヒ素を使った保険金詐欺について赤裸々に語る様子は、事件の進展をリアルタイムで見ていた者としては驚愕のシーンであった。
こうした林一家に加えて弁護士、弁護側の鑑定人が次々登場するために、結果として映画は「林真須美は冤罪ではないか」という監督の疑問を追求する展開になっていく。そこが「正義の行方」と比べて踏み込んだところではある。
映画を見終えて、「冤罪」説をどう思うかは人それぞれだろう。ただ自分は、この映画を見たからこそ思ったことがある。それは…林家ではヒ素を使った犯罪(保険金詐欺)がこれほどあっけらかんと共有されていたのか、ということ。子どもたちも多少なりともそこに巻き込まれていたのだ。
その中で、この一家の実質的な中心に座っていたはずの真須美死刑囚が、犯罪から距離を置いていたということがあり得るだろうか。そして、そのような「ヒ素を使った犯罪」を企てる人が、たまたま同じ時期に、同じ地域に別に存在するということがあり得るだろうか。
これはあくまで個人の感想だが、映画を見て、そう受け取る人も少なくないだろうなと思った。それほど健治氏の証言は衝撃的だったのである。

たけ