「かの「玉座」の誕生秘話」ライオン・キング ムファサ 猿田猿太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0かの「玉座」の誕生秘話

2024年12月26日
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鑑賞方法:映画館

 さすが、「超実写映画」と明言するだけのことはありました。紛うことなく本物にしか見えないライオンたちが、本物にはありえない演技をする驚異。野性味あふれる挙動でサバンナを駆け抜けながら、笑い、泣き、怒り、踊り(踊ったかな?)、リップシンクで歌も歌う。CGといえば、なんか点々の付いたタイツ着た役者がスタジオで収録するぐらいしか知らない私には、これだけの自然きわまりない動物達の躍動をどうやって実現しているのか想像もつかない。まさか、本物のライオン、あるいは、同族だからといって猫を滝壺に落としてみる訳にはいかないでしょう。昔ながらの漫画的アニメーションの味わいは皆無だけれど、実物にしか見えない動物達に思い通りの演技をさせる、新境地であることは・・・まあ、前作「ライオン・キング」で実現済みではありますが。
 お話の筋は、驚きは少ないけど無理がない。予測可能な範囲ではあった分、飲み込みよく鑑賞できたけど、前作にして本編「ライオン・キング」への先行きが判っているだけに、憂鬱に感じる部分もありました。なんと、血の繋がらない兄弟だったとは。
 敵役が白ライオンとは実に興味深いです。まさか、手塚治虫先生のジャングル大帝が白ライオンであることに対する皮肉ではないと信じたい。白という色をこのように使うとは意外だけど、案外、しっくりする。清潔の白、ガンダムが白いのはスポンサーに求められたからという正義の白。犯人をクロと呼ぶのに対する無実の白。精霊潔白の白。
 でも、白には潔白、清浄、頑なな純潔のイメージもある。冷静、冷酷とイメージを繋いでいくと白い死神(ガンオタっぽく悪魔と言っても良いけど)のようにも見える。罪有りと断じれば冷酷に処断する白い騎士達。神殿の白く不気味な僧侶。必ずしも白は友情、愛情を伴う色では無いかもしれない。
 そうとみると、白ライオン達の所業はまるで人間の所業に似ている。「身内を傷つけた者は許さない」という、組織や国を守る王としては当然の振る舞いだろうけど、赦しのない法の厳守が悪役として成り立たせているような。でも、なんだか格好いいんですよね。悪役にも惚れる日本人の風潮には気に入られるかも。ムファサの居候先の、寝てばかりの王様も、血筋に対するこだわりが人間らしくもある。自然界ならば実力主義なんじゃなかろうか。
 実力といえばムファサの実力。そんなに明敏だったとは前作・本編では感じなかったけど、そうだったのかな。このシリーズとは関係ないけど、なんだか「砂の惑星DUNE」のベネ・ゲセリットぽくてちょっと笑った。居候先のタカのお母さんから手ほどきを受けてるのも、なんだかそれっぽくて。
 そして大団円はシリーズ伝統の玉座での咆吼。なんだけど、これが起源にするとは思わなかった。もっと古い歴代の王たちの伝統かと思ってたけど。でもまあ、多くの仲間達ができて、童話や夢物語と思われた楽園に到達して立派な王様になって、「どうであったかではない、これから何者になるか、だ」という名台詞で締める。こういうのを様式美というのでしょうか。ディズニーらしい、無理なく綺麗な映画だったと思います。
 関係ない話ですが、今日見に行った映画館は私一人だけでした。ドルビーの高い料金支払ったけど、丸ごと劇場貸し切りで、とんでもなく贅沢してしまいました。せっかくだから、トイレに行くとき一時停止ボタン貸してくれたらよかったのに。

猿田猿太郎